【名探偵コナン】お前なんか大嫌いだ 3【降谷零】

95話 ページ16

いや聞いてない。こんなのは聞いていないぞ。

あれから気まずいままの降谷のスーツ姿を、実は偶然先程見てしまい、逃げるように人気のないこんな場所でずっと壁にもたれかかっていた。
シンプルながらも、あの黒スーツ。降谷にとてもよく似合っていたし、何というか、黒って着こなし方によっては本当に色気を増すんだなというのを実感する。

正直格好良かった。
認めよう。そりゃあ好きな男のスーツ姿にかっこいいと思うのは当然だ。

それに比べて私はどうだ。シンプルな黒のドレスで、前日に秀一さんが言っていた「もう少し派手でもいいんじゃないか」という言葉に素直に頷いておけば良かったと思っても後の祭り。

「うううう……」

どうしようどうしよう。
お色直しなんてできる時間もない。これで行くしか無いが、こんな仏頂面の女で、なんの派手さも女らしさもない私が降谷の隣を歩くのは気が引ける。
嫌だ戻りたくない。今頃女らしさがないことを悔やんでも遅すぎた。

「………A？」

最も今1番会いたくない人物が、私を呼ぶ声が背後から聞こえ、錆びた人形のように首だけギギ、と振り向けば、不思議そうに私を見つめる、スーツ姿の降谷が立っていた。

「か、」

(……っこいいな、君は)

言いかけた言葉は何とか最初の一文字を言っただけで飲み込むことができた。
10年来一緒にいたから意識してなかったが、こうして自分の気持ちに自覚すると嫌でも分かってしまう。
かっこいいだとか、綺麗だとか、……好きだなと思ってしまうのだ。

「どうしたんだ、そんなところにいて。もう少しで始まるから、そろそろ行くぞ」

「……ああ、うん、分かってる。分かってるけど…」

たかが潜入捜査といっても、こんな見窄らしい私が隣では、降谷も嫌ではないだろうか。周りから変な目で見られないだろうか。

……背を向けたまま、振り向けないし、歩けないし。

嫌だなぁ。本当に、こんな事なら、自覚なんてしたくなかった。

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