検索窓
今日:16 hit、昨日:51 hit、合計:321,551 hit

146 ページ4

・芥川視点

僕一人ではこの状況は如何したら善いのか解らなかったが故、中也さんと太宰さんに電子文書を送信した。
電話で説明すると冗談だと思われる為、証拠となる写真を一緒に添付した方が良いと思ったからだ。

一瞬、最初は此奴が噂の弟なのかとも思ったが、弟にしては小さ過ぎる。
怖がらせて泣かれると面倒な事になる故、出来るだけ怖がらせぬように「…名は何だ」と訊いた。

「…わたせ、渡瀬、A」

………思わず頭を抱えてしまったが、本人がこう云うのだ。顔が此処までそっくりな上に、名が同じであるのなら粗確定だろう。
餓鬼の姿になる事自体には、此処が横浜である限りさして驚きはしない。何方かと云えば、この男は如何してこうも、目を離すとすぐに厄介ごとに巻き込まれているのか。其方に頭が痛かった。
…今ならば、太宰さんがAの事を心配していたのが分かる気がした。

「……チッ、其れで、貴様は何処迄の記憶がある?」

「? どこまで…って?」

反応からして僕の事は記憶に無い様だ。身体だけでは無く、記憶まで退行しているようで、この分だと中也さんや太宰さんの事も覚えてはいないだろう。
念の為に、太宰さん達の名前を出して聞き覚えがあるかを問えば、「知らない」と首を振った。
…そう云えば、確か一昨日辺りにマフィアの構成員が、

「これ、なに?おにいさんのペット?」

頭の中で巡っていた思考はAの言葉に遮られる。
無意識の内に出していたらしい羅生門が、僕の外套から顔を出していた。羅生門を指差しながら、きょとんとする幼いAの顔に、新鮮な気持ちになる。

「……お兄さんでは無い。僕は芥川龍之介だ」

「やつがれ?」

「其れは一人称だ。名は龍之介だ。」

「じゃあ、りゅうさんって呼んでいい?」

………姿が変わろうとも、記憶が無くとも、呼び方は変わらぬのか。
僕が知らぬ餓鬼の頃であったとは云え、この子供は紛れも無く渡瀬Aなのだと、実感した。
如何見ても、怪しい人間にこうも人懐っこいのは昔からか──まあ、其れは今は置いておこう。

「……好きにしろ」

「うん。ねえ、りゅうさん。此処どこ?」

「僕では対処出来る範疇に無い故、頼りになる御二方を呼んでおいた。…あと此処は、一応お前の家だ」

子供の扱いは分からぬ。危機感がない故、とうとう羅生門をつついたり撫でたりして遊び出した。
うっかり羅生門が噛み付かぬよう無言でその光景を見守る。

嗚呼、太宰さん、中也さん。早く来てください。

147→←145



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (512 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
828人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

遥@携帯の調子悪くて返信遅れます(プロフ) - コメント一括にて失礼します。最近携帯の調子悪いので…皆様お待たせしました。次の話でとりあえずは彼の話は一旦終わりとなります。最後まで書き切りますので、それまで見てくださると嬉しいです。 (2019年10月13日 20時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
至恩(プロフ) - お久しぶりです!わーい更新だー!って通知見て思いました! (2019年10月13日 7時) (レス) id: 77907255a2 (このIDを非表示/違反報告)
月夜の死神(プロフ) - わわ…!更新待ってました!これからも頑張って下さい! (2019年10月13日 1時) (レス) id: eb1a5cc196 (このIDを非表示/違反報告)
- どストライクで大好きな作品です!応援してます!! (2019年9月27日 13時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
フェルト - すごく大好きです!頑張ってください! (2019年9月26日 18時) (レス) id: 00cb91440a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2019年2月15日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。