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・織田視点

人を救う側になれ(・・・・・・・・)

子供の様に顔を歪めて、答えを求める太宰に、俺はそう告げた。

「お前が悪側である事で、Aに踏み込む事を躊躇うのなら、あの子と同じ人を救う側になれ。(・・・・・・・・・・・・・・・)
……そうすれば、今までよりもずっと、友達だと胸を張って、云える気がしないか?」

「………」

「其れに、善も悪もお前には大差無いだろうが…、其の方が幾分か素敵だ。
……お前が以前云っていた様に、あの日お前がAに見つけられた事で、お前は心の拠り所を見つけ、少しは救われた様に、な」

少なくとも俺は安堵していた。何時も迷子の子供の様な太宰が、少しでも心の拠り所となれる人間を見つけた事を。
もどかしい距離感の此奴らが、少しくらいは、俺の言葉で前に進んで呉れたら、俺は嬉しい。

「分かった、そうしよう」と呟いた太宰に、微笑む。
最期の力で煙草を取り出して、太宰は火をつけてくれた。

なあ、太宰。お前は気付いていたか?

お前は俺の見る限りではあるが、Aの前では一度も「死にたい」と口にした事は、無かったんだよ。

何時も死にたがっていて、酸化する世界の夢から醒めたいと願っていたお前の中で、きっとAはあの日の様に、お前を見つけてくれる存在だと、思っていたんじゃないか?
Aの揺らめく心臓が、太宰にとっての救いであった様に。

嗚呼───嗚呼。

「そうか、お前の周りに、誰も、居てくれた人間が、居なかったから、」

素性を知られては、太宰の周りから人間は消えていき、組織内でも畏れられ、誰も彼も、太宰の側から居なかったから。
だから、其れでも一緒にいてくれたAのことを、お前は、


Aに何も云ってやれなかった事が、心残りだ。
もし此処にあの子がいたら。なんて。否、此れは、あの子が背負うにはまだ早いものだ。
これから先、沢山の命を見送る側になるというのに。


────最期にまた、親父さんと、Aの料理を食べたかったものだ。



瞼がどんどん重くなって行く。急速に体温が奪われて行く感覚。
震える指が、とうとう下に落ちた。煙草も一緒に。


「……お休み、織田作」

「─────嗚呼。お休み。太宰」


瞼が落ちる。音も何もかも、全て聞こえなくなった。
俺の体を支えてくれている太宰の手の感触も何も、感じなくなって、瞼を閉じた先は一面の闇。







遠い遠い何処かで、誰かが、泣いている様な気がした。

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(プロフ) - 勿論不快にさせた事実は変わりませんが、改めまして女狐呼びは後日修正させていただきます。公式からの呼び名がもし出たらその際はまた変えるかもしれないです。今回はお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。 (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ららさん» 妲己、というのもよく考えたら失礼かなと思ったので追記を。前記の通りキャラを貶す意図はなく、クリスティ爵の残酷な面が垣間見える彼女の言葉一つで街を焼ける、といった権力の強さに狐であった妲己のようだ、といった自分の解釈もあります。→ (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 呼び方の方は後日修正させていただきます。コメントありがとうございました。 (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 誤解を招くようですが、クリスティ爵はとても好きです。映画で動いて声もついたのは本当にとても嬉しかったです。映画のイメージで「こう言う感じの方かな」と言ったイメージが先走ってしまって申し訳ありません。それと夢主持ち上げ、というよりはその辺の→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ららさん» といった意味で女狐呼びをさせていました。軽率にしてしまい申し訳ありません。情報が少ない方なので、私なりの解釈等も混ざってしまい、呼び方等に不快な思いをさせてしまって申し訳ないです。決してキャラを貶すために使ったものではありませんでした。→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年11月13日 18時

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