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・織田視点

縋るような声色のAからの留守電に、一度足が止まった。
返してやりたい気持ちだが、其れを振り切って俺は歩を進める。
行かなくてはならない。そして其れが、俺が死んでしまうことになっても。

礼は、本当は直接云ってやりたかった。
Aの優しい味がする料理が、本当に好きだった。親父さんの料理も美味しいが、Aの料理は何処か暖かみがあって、好きだった。
……子供達にも、一度食べさせてやりたいと思う位には。

其れももう、叶わない夢だが。

Aはきっと、自分も知らない程沢山の糸で繋がれている。
善意のもの、好意のもの、……悪意のものまで、きっと、沢山の糸で繋がれている。
沢山の人間と、知らず知らずの間に繋がっているのだろう。
当人が自覚していないのが、尚更たちが悪かった。

しっかりしている癖に、何かと裏社会側の人間とばかり鉢合わせするAが心配だった。
心配だったから、庇護欲を唆られたのかもしれない。太宰達との件まで話を聞く位には、あの子どものことが心配で仕方なかった。

雨が徐々に止んで行く。

漸く見えてきた目的地に、一度足を止めた。

自分から踏み込んでおいて、結局俺は、あの子にさようならも何も云ってやれなかった。
云ったらきっと誰よりも悲しむのは分かっているからだ。看護師になれば更に誰かの命を見送る側になるあの子に、云う事なんて出来やしなかった。

(……御免な)

太宰にも何も云えていない。

けれど此れは、俺が決めた事だから。
きっと太宰も、俺のその意思を汲み取ってくれたのだろう。俺を止める方法なんて、あの太宰はきっと星の数ほど思い浮かべただろうに、太宰は俺の名前を呼んで、其処からは何も云わなかったのだから。

銃を取り出す。

踏み込めば、もう戻っては来られない。
もう戻らない。戻る気もない。

その選択に後悔は無い。死ぬことになっても。









───────未練ばかりは、山の様に遺して行くことになっても。

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(プロフ) - 勿論不快にさせた事実は変わりませんが、改めまして女狐呼びは後日修正させていただきます。公式からの呼び名がもし出たらその際はまた変えるかもしれないです。今回はお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。 (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ららさん» 妲己、というのもよく考えたら失礼かなと思ったので追記を。前記の通りキャラを貶す意図はなく、クリスティ爵の残酷な面が垣間見える彼女の言葉一つで街を焼ける、といった権力の強さに狐であった妲己のようだ、といった自分の解釈もあります。→ (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 呼び方の方は後日修正させていただきます。コメントありがとうございました。 (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 誤解を招くようですが、クリスティ爵はとても好きです。映画で動いて声もついたのは本当にとても嬉しかったです。映画のイメージで「こう言う感じの方かな」と言ったイメージが先走ってしまって申し訳ありません。それと夢主持ち上げ、というよりはその辺の→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ららさん» といった意味で女狐呼びをさせていました。軽率にしてしまい申し訳ありません。情報が少ない方なので、私なりの解釈等も混ざってしまい、呼び方等に不快な思いをさせてしまって申し訳ないです。決してキャラを貶すために使ったものではありませんでした。→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年11月13日 18時

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