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「……彼奴にも色々考えている事があるんだ。大変ではあるが、気を長くして待ってやって呉れないか」

「……待つ事は、出来ます」

壁が高い。其れは俺も、一般人である事も分かっていた事だ。
だが、太宰からしたらもっと高い壁なのだろう。…きっとそうだ。闇の中に身を置いていれば、嫌でもきっと、分かってしまうのだろう。
そんな俺を見て、織田さんは何か思い出した様に椅子を少し動かして、俺の方へ身体ごと振り向いた。

「なあ、A。」

「はい?」

「此れは太宰治の友人としての、俺からの願いだ。狡猾で、誰よりも頭は切れるが、彼奴だって俺からしたら未だ子供だ。
だからお前よりは長く太宰治という子供を見てきた、俺からの願いを聞いて呉れ」

普段無表情で、感情の起伏が激しいとは言い難い、織田さんの真剣な表情に、俺は息が詰まる。
織田さんの瞳に目が離せなかった。縫い付けられた様に止まってしまった俺に対して、織田さんは其の儘口を開く。

「どうか、どうか太宰治という人間を、置いて行かないでやってくれ(・・・・・・・・・・・・・)。」

………太宰は、置いて行かれる事を酷く恐れていると。
一般人である俺との関わりが露呈されれば、俺を人質に取るなり何なりされる危険性が高い。だから、太宰は隠蔽に隠蔽を重ねて、俺を全てから隠して呉れている事も、知った。
置いて行かれたくないから。……殺されて、死んで欲しくないから。
織田さんから告げられた其れに、世界の全てが静止したかの様に、俺の時間は一瞬止まる。

(……あの莫迦)

其処まで、其処までして、俺に会いに来てくれていたのか。
…其処までして、俺に会いたかったのか。

知らなかった太宰の思いに胸が苦しくなる程だった。
織田さんの願いに、分かりましたと約束した。そう、約束、してしまったんだ。


嬉しそうに織田さんは笑った。
嗚呼、昔そう約束してしまったのだ。今はもう居ない、遠き場所にいる彼の人に。


太宰を置いて行くなと俺に云ったくせに、貴方は太宰どころか、俺さえも置いて逝った癖に。


此れは最早約束、なんてものではなくなった。

織田作之助という人が死んだその日、その瞬間から、この日結ばれた約束というものは、其れすらも超えて、最早此れは呪い(・・)の域に達してしまった。

未だに俺を縛り続ける呪い。
月日が経とうとも、其れは決して薄れるものではない。









貴方は先ず俺に、呪いを残して、その後間も無く死んでしまったのだから。

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(プロフ) - 勿論不快にさせた事実は変わりませんが、改めまして女狐呼びは後日修正させていただきます。公式からの呼び名がもし出たらその際はまた変えるかもしれないです。今回はお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。 (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ららさん» 妲己、というのもよく考えたら失礼かなと思ったので追記を。前記の通りキャラを貶す意図はなく、クリスティ爵の残酷な面が垣間見える彼女の言葉一つで街を焼ける、といった権力の強さに狐であった妲己のようだ、といった自分の解釈もあります。→ (2019年7月28日 1時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 呼び方の方は後日修正させていただきます。コメントありがとうございました。 (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 誤解を招くようですが、クリスティ爵はとても好きです。映画で動いて声もついたのは本当にとても嬉しかったです。映画のイメージで「こう言う感じの方かな」と言ったイメージが先走ってしまって申し訳ありません。それと夢主持ち上げ、というよりはその辺の→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ららさん» といった意味で女狐呼びをさせていました。軽率にしてしまい申し訳ありません。情報が少ない方なので、私なりの解釈等も混ざってしまい、呼び方等に不快な思いをさせてしまって申し訳ないです。決してキャラを貶すために使ったものではありませんでした。→ (2019年7月27日 23時) (レス) id: 5776c56060 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年11月13日 18時

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