すれ違い ページ34
「トレイ〜ねえトレイ〜。」
「はいはい、今忙しいから後でな。」
最近トレイが構ってくれない。
別に倦怠期って訳でもないし多分本当に忙しいから。
彼は副寮長で寮長のサポート役。
色々やらなければならない事が僕以上にあるのは分かっていた。
それなのに。
「俺が寝不足なの分かるだろ。少し放っておいてくれよ。お前とは立場が違うんだ。」
「……ごめん。邪魔だったね。ごめん。」
僕は疲れているトレイに何か出来ることが無いか聞きたかっただけなのに。
口を開く前に拒絶されてしまった。
悲しいけれど涙は出さない。
悲しいを楽しいに変えてやる。
「あれ、Aちゃんトレイくんに用事？」
「ん？いや、今忙しそうだから出てきたところ。今暇ならお茶しない？」
「お、Aちゃんからお誘いなんて珍し〜！いいよいいよー！」
ケイトと一緒にその場を立ち去る。
食堂でケイトと話をしながらしばらく過ごした。
仕方ないんだ。
疲れているトレイに声を掛けたのは自分だから。
怒られて当然だ。
「それでデュースちゃんがー。」
「ホントにあの子達そそっかしいな。」
「だよねー。でもまああのくらいが1年生！って感じで可愛い所もあるよね！」
ちゃんと笑って。
嘘でもいいから。
道化師は、転んで痛くてもおどけて笑う生き物だ。
だから笑顔を絶やさずに。
「A、これからケーキ作るんだ。一緒に来るか？」
「ごめん、先約入ってる。これからケイトとお茶会なの。」
「……そうか、最近仲良いな。」
「そう？いつも通りだよ。何も変わってないから。」
変わってない。
はずっだった。
明らかに変わっているのに。
僕は見ない振りをした。
汚い物に蓋をするように。
貼り付けた笑顔でトレイから逃げるように去る。
「おっと、前見ないと危ないよ〜ってAちゃん！」
「あ、ごめんケイト。前見てなかったや。」
僕が顔を上げるとケイトは目を丸くする。
そしてケイトは僕の頬に触れて「どうしたの？」と問い掛けてきた。
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作者名：柳雪 | 作成日時：2020年6月7日 11時
