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「ちょっと……」
「ごめん、でも」


謝っているようで嬉しそうな_____変な顔をしていた。彼は人混みの中であるということを考慮しながら、Aを強く抱き締めた。これでもまだ足りないと更に近付く。それに動揺を隠せなかったのは彼女の方だった。「こうしなくちゃ、ダメな気がして」自分でしといて、どうしてこうも彼は自信なさげなのか_____ニュートはまるで自分が自分でないような不思議な感覚に囚われていた。彼女が愛しくて堪らない……ここで手を出したら怒られることは分かっていた。それだけに、ニュートはどうすれば良いのか分からず、ただ抱き締めることしか出来ないのだった。

足元にあるトランクが心配ではらはらしていたAは、一つ覚えのようにハグをする彼に溜め息をつく。


「…そのトランクから可愛い魔法動物たちが逃げ出したって知らないわよ」
「心配しないで」
「ティナみたいに捜せない」
「A、」


周りから高い口笛が飛び交った。それと同時に唇に伝わる生温かい感触_____Aが彼の名を呼ぶよりも先に、彼は黙らせるようなキスをした。Aがトランクに目を落とすと、鞄の隙間から伸びていた手が慌てて引っ込む。ほら言わんこっちゃ無いとニュートを見つめれば、彼は困ったように笑って、Aの髪の毛を掬った。


「……人前なのに」
「A以外は、いつもより綺麗な景色みたいだよ」
「ヘンなジョークね」


「嫌いだった?」と唇が離れて、誤魔化すように息を整える。出発を知らせる汽笛が響き、船からこちらを見下ろす子供たちが無邪気に手を振る。Aはそんな子供たちと同じくらい手の掛かるニュートの頭をくしゃりと撫でて、手を振り返した。「気に入った!」今度はAから手を伸ばし、ニュートを抱きしめる。フルーツジュースが作られるように、じわりじわりと幸せが頰の中を伝わっていく。

「たまには動物捜しも良いかも」

彼女が微笑んで、それからニュートは不器用な口角をゆっくり上げた。ピケットに見せる笑顔とは違う種類のものだと、何故かAは一瞬で分かった。だって、こんなにも二人は幸せなのだ。


「ニュート、幸せだわ。恐ろしいくらいに」
「……そう、だね」


「泣いてるの?」と顔を背けてしまった二ュートを覗き込む。______返事は無い。

そしてもう一度_____柔らかな触れ合いだけで脳内が空になるのだから、これ以上に優しい感覚は知らないだろう。そうだ、もうこれ以上は、言葉に出来ない。



……fin.

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くさの(プロフ) - 初音さん» コメントありがとうございます。そう言って頂けるだけでも嬉しいです。私は上手に恋愛ものが書けないのですごく悩んだんですが安心しました。拙い文章ですがこれからもよろしくお願いします! (2018年12月14日 6時) (レス) id: d0d75d00f1 (このIDを非表示/違反報告)
初音(プロフ) - 申し訳ございません。作者様の作品がいかに素晴らしいかをお伝えしたいのですが語彙力が足りません。在り来りでいいのなら、とても綺麗で切なくて甘い素敵な作品だと思います! (2018年12月14日 0時) (レス) id: c0fa5c81b4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くさの | 作成日時:2018年12月9日 15時

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