03 ページ12
▽
少しでも動かせばくっつく距離にいた。恐る恐るAの顔に手を這わせて、涙の跡をなぞる。彼女はただ静かに、ニュートを受け入れようとしていた。「泣かないで、お願い」「泣いてない」涙ぐんだ声で言い返す彼女は、全くニュートに心を許していなかった。キスをするために近付いた距離が、どんどん遠ざかろうとしていた。彼からのキスを拒むように、Aは呟いた。ニュートには彼女がとても小さく見えた。今にも消えてしまいそうで、それだけが心配だったのだ。
「あなたのお兄さんだって同じだった……あなたみたいに優しくて、こんな私を____私を、愛してくれた。けど、テセウスは…っ、彼は、」
「それ以上言わないで、A」
「嫌よ！」
「僕は兄さんじゃない____」
「でも兄弟よ、」
「あなたの顔なんか、見たくない」Aはまたぼろぼろと涙を零しながら、ニュートの胸板を必死に突き放そうとした。手遅れだった。これ以上の言葉はどこを探しても出てこなかった。文字は消せても、言葉は消せない_____Aは、それを今とても痛感していた。衝動的だったとは言え、自分は最低なことを言ってしまった。ニュートは、何も悪くないのに。Aはそれが分かっていただけに、さらに自己嫌悪に陥った。いっそのこと、これで全て終わりにしたいとまで思った。結局自分は、逃げてばかりの臆病者だ_____彼を傷付けてばかりの、最低な女だった。
「_____A」
ようやく動けるようになって、辿々しい足取りで部屋を出ようとした時、ニュートの真っ直ぐな声が彼女を待ち受けていた。
Aは手首を掴まれた反動で体が大きく傾き、背中がもう一度壁にくっ付いた。彼女は急な出来事に腰を抜かして、その場にへたり込む。彼はいつになく優しげな顔でAの頭に腕を回した。これでも細心の注意を払ったつもりだった。「…ん！」彼女が嫌だと言うより先に、唇に生温かい感触が伝わって、Aは大きく目を見開いた。触れるだけのキスだというのに、びくりと細い肩を跳ねさせ、ニュートを上目遣いに凝視する。彼女はそれほど余裕を失っていたのだった。いつもは優しい彼が、獣のように覆い被さっているのだ。思わず飛び出た甘ったるい自分の啼き声が無性に恥ずかしくて、また涙がぽろりと出た。時折漏れるニュートの息に、彼女は口の中をぞくりと震わせながら、尚もいやいやと駄々をこねていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 247人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
くさの(プロフ) - 初音さん» コメントありがとうございます。そう言って頂けるだけでも嬉しいです。私は上手に恋愛ものが書けないのですごく悩んだんですが安心しました。拙い文章ですがこれからもよろしくお願いします！ (2018年12月14日 6時) (
レス) id: d0d75d00f1 (このIDを非表示/違反報告)
初音(プロフ) - 申し訳ございません。作者様の作品がいかに素晴らしいかをお伝えしたいのですが語彙力が足りません。在り来りでいいのなら、とても綺麗で切なくて甘い素敵な作品だと思います！ (2018年12月14日 0時) (レス) id: c0fa5c81b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：くさの | 作成日時：2018年12月9日 15時
