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「―――ところで、要件はなんでしょうか」
咳払いをしてそう問いかけると、イルミ様はベッドの上に座り、手招きをしてきた。私の問いに答えて欲しかったんだけどとほんの少し眉を顰めながらイルミ様の方へと近付くとぐいと手を引かれてイルミ様の膝の上に向かい合わせで座る形になった。
驚いて目を見開いていると、イルミ様はそっと私の頬に手を触れる。
「話したかったのは俺がAを専属執事にすることに賛成した理由だよ」
「賛成した理由、ですか」
その理由を話すのにどうしてこんな体勢になっているのだろう。普通に座って話すという選択肢はイルミ様の中にはなかったのだろうか。
「そ、簡潔に言うと俺、Aの事独占してたくってさ。専属執事にすればそれが叶うと思ったんだよね」
「……は、はあ……」
「本当は許嫁にして欲しかったんだよ？ でもその話がなかなか出なくってさ、専属執事で我慢してるってわけ」
「そうですか……って、はい？ 許嫁が良かった……？？」
なんか色々話を聞いてこの体勢がちょっとまずいような気がしてきた。膝から降りようとすると『どこ行くの』と阻止されてしまう。
「あの、っ……冗談はやめてください。それに執事の恋愛は死刑にあたるのでは……っ」
「他の奴はね。でもAは別。それに俺が言ってる事全部冗談なんかじゃないんだけど」
じっと光を知らない深淵をそのまま写したかのような、暗く虚ろな瞳が私を見つめる。
そのままゆっくりと近づき、その距離はゼロになった。
唇に感じる柔らかな感触。何とか離れようと押しのけようとするとその手を掴まれて抵抗も出来なくなってしまった。何度か角度を変えながら口付けられ、そっと離される。
「冗談でキスするような男じゃないよ、俺」
「ッ―――」
口元を押さえて顔を赤くさせていると、耳元で『これから覚悟しておきなよ』と囁かれた。
「いつかはAと許嫁になれるようにするつもりだから、そのつもりでいてね」
『話はこれで終わりだから』と開放されたけれどあまりにも唐突で予想外の出来事にこれからどうすればいいか私は頭を悩ませた。
本当にイルミ様の考えていることが分からない。
それと私……ファーストキスだったんだけど……
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作者名：Snow | 作成日時：2022年8月6日 19時
