きみがいれば / c ページ6
夕闇の中で誰と特に仲が良いの？
そう聞かれることは、決して少なくは無かった。
彼らのスタッフとして働き始めて、そろそろ3年が経つ。初めは大学が同じだった小柳くんにボランティアとして誘われたが、いつの間にか楽しくなってしまい仕事として手伝いをするようになった。
動画でも私の存在は公にしていないし、ライブも袖で見ているので特にトラブルなども無い。しかし、関係者にはよく誰かと付き合ってるの？と聞かれてしまい、以前は根も葉もない噂が独り歩きしてしまうこともあった。メンバーが否定してくれたお陰で最近は言われなくなったが。
「Aちゃん」
…まあ、変な噂が立たないためのカモフラージュだけどね。
「なあに、高山くん」
へらっと笑うギタリストと、誰にも内緒で恋に落ちていた。
「んふふ」
にこにこしながら、指を絡めてくる。細身のくせして指は太くて男らしい。さすがバンドマンといったところだろうか。メンバーにも気を遣わせてしまうので、本当に2人だけの秘密の関係だった。
「ねえ、ちょっと、ばれちゃうよ」
あと7分でライブが始まる。他のメンバーは全員下手に集まっているのに、私たちだけは上手にいた。それも、ステージから見えるぎりぎりのところ。
「だあいじょうぶだって」
どこからか、彼の名を呼ぶ女性の声が聞こえた。きっと上手側に待機しているファンの声だろう。どうしよう、見えてる？
「ね、高山くん、そろそろ行かないと本当に怪しまれちゃう」
「いいから…」
絡みあっていた右手を引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられる。
「ちょっと…！」
「俺、今日も頑張るね」
私の身体が、彼の中にすっぽりと収まる。温かい。緊張してるのかな。彼の心拍数がいつもより高い気がする。
「うん、応援してる、いちばん」
小柳さんもともやんもにっちも、みんな大好きだけれど、いつも一番好きなのは高山くん。貴方だけよ。
「嬉しいなあ」
満足そうな声で囁くと、また誰かが彼の名を呼んだ。今度は小柳さんだろう。そろそろ円陣を組むのだろうか。
「…じゃあ、行ってきます」
「うん、見てるね」
目を細めて笑うと、上手へと走って行った。
しばらくして、いつものSEがスピーカーから聞こえ始める。ああ、始まるんだな。世界で一番好きなライブが。
「好きだよ、ずーっと」
きらきらと輝く彼の背中に、そう呟いた。
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作者名：ｍａ | 作成日時：2020年1月31日 22時
