甘味症候群 (ページ1)

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いじわる　/ t ページ1

「あ、煙草吸っていい？」

「…いいよ」

彼が運転する車内の中でそんな会話をするのは何回目だろうか。

彼のことが好きだ。
有難いことに、彼も私のことを好きでいてくれている。

こんな私を受け入れてくれているから、私も彼のことを理解しようと思った。

今まで聞かなかったような激しめの音楽を聴くようになったし、洋服の趣味も彼に合わせて変えた。
遊びに行く場所も、少しだけ大人っぽくなった…かもしれない。

「なんでいつもそんな顔してんの？」

こちらを見て、彼がふふっと目尻に皺を寄せて微笑した。

彼の笑った顔が好き。彼の服装が好き。彼の趣味が好き。彼の生み出す音楽が好き。

…でも。

「…煙草、好きじゃないんだもん」

どうしても、彼の吸う煙草だけは好きになれなかった。

「どうして？」

優しい声で、まるで子供をなだめるかのように私に問いかける。心の中できゅん、と音がした。

「…だって」

「うん」

赤信号で、車がゆっくりと止まる。目の前を沢山の人が歩行する中、私は小さく息を吸い言った。

「寿命、縮んじゃうでしょ」

なんだか恥ずかしくて、思わず俯いてしまう。

彼のえ？という拍子抜けしたような声が上から聞こえた。

「…それだけ？」

「わ、悪いですか」

我ながら子供だとは思う。でも、愛する貴方が生きる時間がそれによって減ってしまうとなると、どうしても好きになれなかった。

「なんだ、臭いかと思った」

余裕そうな笑みを浮かべ、彼がハンドルを握り直す。いちいち仕草が絵になることすらも、今だけはずるいと感じた。

「それは別に気にならないよ」

「うん、ちゃんと色々やってるからね」

色々ってなんだろう。私のためにやってくれてるのかな。そう考えるだけで、またきゅんとしてしまったり。

外の景色が、目まぐるしく変わってゆく。見上げると、彼の瞳に様々な色が映っていた。

「あのさ、」

彼の声が聞こえたので、思わずそちらに顔を向けた。

「寿命が伸びる方法、ひとつだけ知ってるんだよね」

「え、なに、」

教えて、と言いかけた瞬間、彼によって唇が塞がれた。視界が彼でいっぱいになる。

「…へ」

まんまるの猫みたいな瞳に、私が大きく映し出されていた。

「これだよ」

にこ、と悪戯っぽく笑う彼が、あまりにもかっこよくて、可愛くて、ずるくて。

「…もう、ばか！」

私の声と共に、車がゆっくりと動き出した。