ねえ、こっち向いてよ。

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「お疲れ様でした〜」



そう言って、スタジオを後にした。

もう中には誰もいないけれど。



重い楽器を背負って、1人寂しく歩行する。


正直、今の雰囲気ではもう何もできないと思う。明日も明後日も、こんな感じなのだろうか。



「…いやだなあ」



ぽつり、と虚空に呟いた。白い息が目の前に広がる。

少し前、1ヶ月ぐらい前だったら、スタジオ練の後は4人でファミレス行って、時間があれば朝までドリンクバーで粘ってたっけ。



懐かしいな、と思ってしまう自分が嫌だった。






今日はバイトも無く、この後特に予定も無かったので楽器屋で新しい機材でも見に行こうかな、とちょうどそう思ったとき。


スマートフォンが、掌の中で小さく振動した。



MIKUねえ今日の夜ひま?暇だったらこの前会ったホテルの前で待ってるね〜





……Aちゃん。


何をしていても一番に思い浮かぶのはいつも彼女のことだった。Aちゃんからこんな連絡が来たらどんなに嬉しいだろうか。そもそも連絡先知らない。


…まあ、連絡が来たところでこんな馬鹿みたいな文章送ってこないと思うけど。




少しだけ迷ったが、まあ断る理由も無いので、とりあえず既読を付けそのまま電話をした。2コール目で繋がった。早えな。




「あ、もしもし？あぁ〜、あのさ、この前どこで会ったんだっけ」




今の俺には、心の拠り所がこれしか無かった。




音楽って、やっぱり人をおかしくさせてしまうものだと思う。




ああもう、全部全部夢だったらいいのに。

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