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「先生、どこにいるの、」
晴れ舞台である卒業式が終わり、クラス最後のHRも終わると、先生はあっという間に生徒に囲まれて、姿は見えなくなった。
(私も、)
そう思ったけれど、皆がいては、私が本当に伝えたかった言葉は、言えないから。
少し経ったらまた来ようと思って、戻ってきたのは、ついさっきだ。
誰に聞いても、見てない、としか言われずに、焦って思い付いたのは、実験室。
「先生、いますか、?」
返事はない。 そっと扉に手をかけると、鍵はかかっていなかった。
「おついち、先生、?」
カラカラ、と音をたてて開く扉の先には、窓から外を眺める先生がいた。
「…………ばれちゃったか、」
振り向いたのは、いつもの余裕などどこにもなく、ひどく悲しそうに笑う先生。
どうしてか私は、なにも言えずに。
「湿っぽいのはどうも苦手でねぇ、」
僕も年かな、なんて、笑う。
「___せんせ、」
「ん?」
言わなきゃ、ちゃんと。
伝えるって、決めていたんだから。
声が、震える。
「ずっと、好きでした」
先生は、はっと私を見ると
すぐに、目を伏せた。
「___嬉しいねぇ、こんな素敵な子に」
先生の声も、微かに、震えている気がした。
「でもね、Aちゃん、キミの今持ってる、その大切な気持ちは、僕に向けるべきじゃない」
息が、詰まって。
喉の奥が、じんじんと痛くなる。
「きっと僕のことなんか、すぐに忘れちゃうくらい、素敵な人に出会えるよ」
「そんなことっ、」
溢れる涙を、止められなくて。
苦しくて、どこまでも余裕で、大人な先生に追い付けないことが、悔しい。
___刹那、私の視界は黒く染まる。
「___大丈夫、」
ふわ、と香るのはきっとおついち先生のもので
私を包む温もりも、きっと。
「急がなくていいから__」
“泣かないで、”
消え入りそうな声も、小さく聞こえる鼓動の音も。
全部、夢のようにひどく曖昧で。
「せんせ、」
「ごめんね、泣かせたかったわけじゃないんだ」
いっそこのまま、時が止まってしまえばいいのに。
もう少しだけ、夢を見ていたくて、
私は静かに、目を閉じた。
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作者名:日向 | 作成日時:2017年10月21日 23時