検索窓
今日:4 hit、昨日:4 hit、合計:21,875 hit

# ページ5

.






「先生、どこにいるの、」








晴れ舞台である卒業式が終わり、クラス最後のHRも終わると、先生はあっという間に生徒に囲まれて、姿は見えなくなった。








(私も、)









そう思ったけれど、皆がいては、私が本当に伝えたかった言葉は、言えないから。









少し経ったらまた来ようと思って、戻ってきたのは、ついさっきだ。

誰に聞いても、見てない、としか言われずに、焦って思い付いたのは、実験室。









「先生、いますか、?」









返事はない。 そっと扉に手をかけると、鍵はかかっていなかった。









「おついち、先生、?」









カラカラ、と音をたてて開く扉の先には、窓から外を眺める先生がいた。









「…………ばれちゃったか、」









振り向いたのは、いつもの余裕などどこにもなく、ひどく悲しそうに笑う先生。

どうしてか私は、なにも言えずに。









「湿っぽいのはどうも苦手でねぇ、」









僕も年かな、なんて、笑う。









「___せんせ、」

「ん?」









言わなきゃ、ちゃんと。
伝えるって、決めていたんだから。

声が、震える。









「ずっと、好きでした」









先生は、はっと私を見ると
すぐに、目を伏せた。









 
「___嬉しいねぇ、こんな素敵な子に」









先生の声も、微かに、震えている気がした。









「でもね、Aちゃん、キミの今持ってる、その大切な気持ちは、僕に向けるべきじゃない」









息が、詰まって。
喉の奥が、じんじんと痛くなる。









「きっと僕のことなんか、すぐに忘れちゃうくらい、素敵な人に出会えるよ」

「そんなことっ、」









溢れる涙を、止められなくて。
苦しくて、どこまでも余裕で、大人な先生に追い付けないことが、悔しい。









___刹那、私の視界は黒く染まる。









「___大丈夫、」









ふわ、と香るのはきっとおついち先生のもので
私を包む温もりも、きっと。









「急がなくていいから__」









“泣かないで、”









消え入りそうな声も、小さく聞こえる鼓動の音も。

全部、夢のようにひどく曖昧で。









「せんせ、」

「ごめんね、泣かせたかったわけじゃないんだ」









いっそこのまま、時が止まってしまえばいいのに。








もう少しだけ、夢を見ていたくて、
私は静かに、目を閉じた。






.

#→←#



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (25 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
45人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:日向 | 作成日時:2017年10月21日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。