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「Aちゃん、今日はコーヒーとお菓子、二人分お願いできるかな?」
「……?はい、」
「ありがとう」
あれから、どれほど時が経っただろう。
弟者さんに渡された紙切れを頼りに、必死に探し当てたこの家は、おついち、という人のものだった。
ひどく混乱し、止まらない涙とともに吐き出した弟者さんへの想いと出来事を、彼は静かに聞いてくれた。
ここなら大丈夫、弟者くんのことも心配いらない、僕が守ってあげるからと、彼は優しそうに笑って言った。
私は変異してしまったアンドロイドにも関わらず、だ。
弟者さんに会いたいと、何度も彼を想った。
でも、無事でいてくれるのなら何でもいい、とも思う。
コトン、と置いた温かいコーヒーと、おいしいと評判のケーキ。
どちらもおついちさんのお気に入りだ。
「ありがとう、Aちゃん」
「はい」
「……良かったね、」
「……?」
「ふふ、これから賑やかになるなぁ」
おついちさんが、どこか楽しそうに笑うと、不意に鳴るのはチャイムの軽やかな音。
「あっ、Aちゃんは、ちょっとここで待ってて!」
「……分かりました」
無意識に出ようとした私を、おついちさんは嬉しそうに引き止める。
なにやら弾むような声が聞こえて、それに混ざるのは懐かしく響く声。
速る鼓動を止められなくて、なんだか涙が溢れそうになった。
「Aちゃーん!おいで!」
おついちさんの言葉に思わず走り出すと、目に飛び込んできた景色に映るのは、愛おしく思う彼だった。
「遅くなってごめんな。迎えに来たよ、A」
「ちょっと。迎えに来たんじゃなくて、今日から一緒に住むんでしょうが」
「えー?細かいなぁおっつんは。まぁそうだけど。お世話になりまーすおついちさん!」
「……もう、しょうがないやつだなぁ」
変わらずに私の名を呼んで、彼がここで笑ってる。
それが、どんなに嬉しいか。
「……おわっ!」
勢いよく弟者さんに抱きつくと、彼は慌てながらもしっかりと受け止めてくれた。
「おかえりなさい、弟者さん……!」
「……ただいま」
私は幸せなアンドロイド。
きっと、世界で一番の。
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作者名:日向 | 作成日時:2017年10月21日 23時