86 ページ39
幼い時から、アタシを守ってくれる人はいなかった。
守るのはアタシであって、アタシが守られることはないと思っていた。
そう割り切っていた。………それでも、ママが死んで、それからすぐに始まった大寿の暴力は辛かった。
でも、アタシは八戒のお姉ちゃんだから。
兄に殴られて痛む右頬も、あふれる涙も、誰にも見せない。目の前にあるお墓の中にいる、ママにも。
『やっほ。』
声がした方を見ると、アタシと同じような痣を顔につけている、同い年であろう女の子。
アタシと同じように、暴力に支配されて苦しい思いをしている子。
その子の名前は、紬。
時は八戒が小学校に上がった年の春。場所はお墓。そこでアタシたちは出会った。
初めて、他のみんなが見て見ぬフリをしていたアタシの傷を手当してくれた子だった。
アタシたちはお互いの傷口を舐め合うように、お互いを支え合うように、………本当の姉妹のように絆を築いていった。
そんなんだから、もちろん家に上げさせるくらいはする。
八戒に紹介して一緒にお世話をしたりも、もちろんする。
だが、やっぱりそれが良くなかった。
『ユズハー。はっかーい。
なに勝手に、知らねぇ人間を家に上げてんだ。』
油断していたわけじゃない。でもやっぱり、この男とは同じ屋根の下で過ごしているのだと思い知らされる。
たまたま早くに帰ってきた大寿に見つかった。
紬が帰ったら、間違いなく大寿の躾けという名の暴力が始まるだろう。
覚悟しているとはいえ、やっぱり怖かった。
でも、今日は何故か紬はいつまで経っても立ち去る様子はない。
大寿もシビレを切らして問いかけるが、紬はキッパリと告げたのだ。
『ユズたちに暴力振るってんじゃねーよ、このDV野郎。』
その瞬間、紬が殴られた。
八戒の悲鳴と、紬が床に叩きつけられる音。
いつもはできるだけ大寿を刺激しないよう注意を払っていた。でも、今回は反抗的な態度に出てしまった。おかげで大寿に殴られたが、まったく後悔なんてしなかった。だってアタシの大切な人が殴られたのだから。
初めてだったのだ。
誰かに、守られたことは。
『守ってくれてありがとう、紬。』
この日、アタシは確かに希望を持った。
412人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Moon(プロフ) - こんにちは(*ˊᵕˋ*)コメント失礼します🙇♀️めっちゃこの物語良き過ぎます(๑•̀ㅂ•́)و✧更新されるのを楽しみにしています(*^^*)🎵𓈒𓏸 (2023年2月3日 17時) (レス) @page43 id: b2ea47ad96 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - あ、八戒固まった、このシーン好き! (2022年11月6日 19時) (レス) @page18 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - あ、これって、あの短編にあったシーン! (2022年11月3日 13時) (レス) @page11 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 場地さんそのセリフ!!!夢主、鈍感だよって、ハロウィンのは大泣き場面やぁ…… (2022年10月30日 22時) (レス) @page7 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
巫缶(プロフ) - 違う!そういう意味じゃない!(多分) (2022年10月30日 21時) (レス) @page7 id: 926dc0c43f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時:2022年10月28日 16時