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*

 目が文字の上を滑る。
 私は無限城を走り回り、狭めの一室を見つけたのでそこで身体を小さく丸めながら本を読んでいた。無惨さまに目を通し、あとで内容を話すよう仰せ付けられた本。しかし内容は一切頭に入ってこない。

 無惨さまは、鬼だ。
 鬼とは、人を食べて生きる存在だ。
 無惨さまに拾われ、無惨さまのAとなった時点で、腹をくくっていたつもりなのに、今回無惨さまのお仲間に対する冷酷さを知り、私は少しだけ、悲しくなってしまった。
 『解体』された鬼は、見るからに無惨さまを慕っていた。無惨さまを畏れる心が一番大きかったけれど、確かに慕っていた。そんな声色だった。私は人の感情に敏感だから、そういうのよく分かるのだ。
 無惨さまを心の底から慕っていた。そしておそらく、無惨さまもそれを知っていた。知っていて、なお。

 鬼って、無惨さまの血で増えるんじゃなかったのか。ならあの鬼も無惨が増やした存在じゃないんだろうか。
 知ってた、無惨さまが冷たい人だって。知ってたよ、知ってた。それも含めて私は無惨さまを主だと思っていた。

 なら、なんで私はこんなにも、ぐちゃぐちゃした心をしているんだろう。

「……」

 考えていたら、次第にまぶたが重たくなってきた。今日はずいぶんと走り回ったし、この部屋は薄暗いし。
 私は自分の胸元をぐっと握りしめながら、ぱたりとまぶたを落とした。






 べん、と柔らかなびわの音。
 抱き上げられるような、かすかな浮遊感、冷たい指が頬に触れる。

「……なぜ泣いている」

 控えめな声。

「なぜAが悲しむ」

 悲しんでる、わけではない気がします。
 悲しんでいるんじゃない。
 私は……怖い。

「ならば……なぜ私には怯えない? 私に殺されることが怖いのではないのか」

 それは、あんまり怖くない。

「なぜだ」



「………内緒、です」





 ふっとまぶたを持ち上げれば、そこはもう無限城の一室では無く、私が無惨さまに与えられた部屋だった。私はその寝台に寝間着を着て寝かされていた。寝間着は無惨さまに与えられたものの、未だ着ていなかった一着だ。

 バン、と音を立ててドアが開かれた。そこには無惨さまが立っていて、その表情は美しいお顔がもったいないくらい険しいものだった。

「えっと……おはよう、ございます」

 間抜けな私の挨拶にも、無惨さまは表情を変えなかった。

 *

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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