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「掛詞のつもりか? まだまだだな」

 掛詞、平安時代の和歌に使われる技法のこと。さすが無惨さま、知識が恐ろしく幅広い!

 無惨さまは小馬鹿にしたように私を見て、手に持っていた試験管を試験管立てに戻す。そして私のほうに近寄ってきて、満足げに額を小突きながら、わざとらしい質問をしてきた。

「……良い服だな、誰に買ってもらったんだ?」
「私のお洒落あるじに買ってもらいました。名前は無惨さまというらしいですよ」

 無惨さまは私の服を上から下まで見て、再び小さく笑った。少し遠くにいる鬼の仲間の人たちから、また小さく息を呑むような声が聞こえる。

 今日の私の服は、無惨さまが選んだものだった。しかし、つい先日から熱心に着ろと無惨さまが命じているものではなく、その後に無惨さまが用意してくれた、召使い服の少し装飾が華やかなものを私は着ている。
 この服ならばお掃除も出来るし、無限城を走りまわることも出来るので、私は結構この服を気に入っていた。
 更なるジョークを言おうと思って、私がすっと息を吸ったら、それを遮るように、叫び声にも似た非難の声が上がった。

「そ、そ、そその小娘はだ、誰ですか!」

 声を上げた人、いや、鬼はガタガタと震えながらもそう言った。その場の全員の注意がその鬼に移る。鬼は大きな目玉に小さな背丈を持っていて、人間とは言い切れないけれども、鬼の中でもまだ人の成りを残しているように感じた。
 噂に聞いたから確かでは無いのだけれど、人をたくさん食べれば食べただけ、その鬼は人の形から遠ざかる、らしい。じゃああの鬼は、生まれて間もないということ?
 私が不思議に思いながら上下左右に震える鬼を見ていたら、無惨さまはそちらに冷ややかな視線を移した。

「……いつ、私が発言を許可した?」

 とん、と無惨さまに肩を押され、バランスを崩した私は後ろに倒れる。
 ぺたりとお尻をついたそこはまた別の部屋で、目の前で襖がひとりでに音を立て閉められた。

「む、むざ」

 んさま、という言葉は、隙間からもれるさっきの鬼の絶叫に紛れて消えた。私がひゅっと息を呑むと、もう悲鳴は遠く、聞こえなくなってしまった。
 慌てて襖に手をかけるけれど、動かない。私は居ても立ってもいられず、その部屋の別の襖を開いて外に飛び出した。

 走って走って、自分がどこにいたのか、自分がどこから来たのかも分からなくなった頃、ふと鼻先が誰かの背中にぶつかった。

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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