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それから少し経った頃に、ようやく離れ離れの生活が終わることになった。無惨さまいわく、これでも全労力を使って全ての仕事を終わらせたらしい。その全労力っておそらく他の鬼の人たちの分もあるよなぁなんて考えながらも、私は無惨さまのご帰宅を心から嬉しく思うのだった。
だけれど、長いようで短い、猗窩座さんとの時間はもうおしまいである。
猗窩座さん。結局この数日間、猗窩座さんとはずっと一緒に遊んでいただけのような気がする。
「猗窩座さん、短い間でしたが、とっても楽しかったです!」
出来ればもっとお話をしたかったし、遊びたかった。
猗窩座さんは私の真っ直ぐな視線に真っ向から向き合うと、ほんの少しだけ笑った。
「認める」
私はキョトンとして首を傾げた。脈絡のない言葉だ。しかし猗窩座さんはそれで良いのだと微笑む。
「お前は強い」
あぁと思い当たる節が浮かび、私は小さく笑ってしまう。そうだ、私は猗窩座さんに己の強さを証明するために西洋かるたをしたんだった。
「頭を使う遊戯でしたら負けませんよ!」
私が頭をこつこつ叩いて笑って見せたら、猗窩座さんは私の乱れた前髪に遠慮ぎみに手を伸ばした。
「それだけじゃない。お前は心も強い」
そっと触れた指先はわずかに震えていた。
唯一分かったこと。
それは猗窩座さんにとって『強さ』とは特別な意味を持っているということ。
「……また遊びましょうね」
私が猗窩座さんの顔を下から覗き込んだら、猗窩座さんはちょっと照れたように、困ったように笑っていた。
「まだ痛むか?」
首筋を撫でられ、私は手の内で弄んでいたお土産の木の枝をぎゅっと握り直した。
「あんまり痛くないです」
首筋、そこにある歯型はもうほとんど消えている。痛みなんてほとんど無い。
「どうだった、この数日間は」
私は振り向いて、唇を尖らせて無惨さまを見上げた。
わかっている癖に。知ってる癖に。
無惨は片眉を上げる。私はつい強がって、思い通りに口にしたくなくて、変なことを言おうとするけれど、心よりも私の唇はずっとずっと正直だった。
「寂しかったです」
それだけ、ぽつりと呟いた。
不意に潤んだ視界、無惨さまの目が見開かれる。
「…………私も」
その先の言葉は、音にならならない。
無惨さまの唇が、そっと私の頬を滑る涙に寄せられた。
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続編でもよろしくお願いします。
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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時