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*

 低い声、しかし耳慣れた声、欲していた声。
 
「無惨さま……!」

 私が後ろを振り向いたその瞬間、腰に腕がまわされ、無惨さまの整ったお顔がすぐ目の前に広がった。赤い瞳がぎらぎらと私を射抜く。

「A」

 もう一度、何かを確認するように名前を呼ぶ。私はその声が嬉しくて嬉しくて、ふにゃりと頬を緩めてしまう。しかし無惨さまは仏頂面のまま。どこか不機嫌そうだ。

「今しがた、誰の名を呼んだ? そして誰に名を呼ばれた?」

 私は目をぱちくりさせた。無惨さまの攻撃的な視線をなぞるように、一度ゆっくりと瞬きをする。

「童磨さんの名前を呼び、童磨さんに名前を呼ばれました」

 と、そこまで言ってあ、と声を漏らした。

「そうだ、無惨さま、大変です。ついさっきまで童磨さんが居たのに、急に居なくなってしまったんです」

 しかし無惨さまは無言。無言の後、ぽつりと付け加える。なぜだか、少し怯えたような、寂しそうな目で。

「童磨をどう思った?」

 私は再び目を瞬かせた。そして瞳を揺らして、無惨さまを見つめる。

「ちょっとだけ、昔を思い出す人でした」

 掠れた声で、無惨さまを見つめる。童磨さんは孤児院にいた頃の思い出、仄暗いそれを少し彷彿とさせる。
 私が視線をうろ、と下げると、無惨さまが私の顎をとった。

「……」

 無惨さまはそれ以上何も言わない。ただ私の腰に当てた手に少し力を加えるだけ。しかし、不機嫌さはもう消え果てているような気がした。

「Aの名を呼んだ鬼は、Aのもとから離れるような呪いがかかっている」

 え、と私は目を見開いた。

「そして私は、どの鬼がいつどこでAと口にしたかを把握している」

 なんてこったい、それで童磨さんは私の目の前から消えたのか!

「童磨さんは今どこに……?」

 無惨さまはちらりと私の背後へ視線を流した。と、ガラ、と音がして、からから笑いながら童磨さんが部屋に入ってきた。なんだ、戻ってくることは出来る範疇に居たのか、良かった。何が良かったのかは分からないけれどーー

「ーーあ、無惨さま! そうです、そんなことより!」

 私は無惨さまのほうへ振り向いて、至近距離で目を合わせた。

「……会いたかったです、とっても」

 私の言葉に無惨さまは目を見開き、ついでふわりと目を細めた。

「あぁ、知っていた」

 知っていたに決まっている。
 そう呟いて、無惨さまは私の頭をそっと撫でた。

 *
 

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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