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「さて、ところで今日ここに猗窩座殿たちを呼び出したのは、俺が唯一ちゃんに会いたかったからなんだ!」
種明かしをするように言う童磨さんだけれど、猗窩座さんはため息を吐いて、やっぱりと口にした。想像の範疇だったらしい。
「上弦の誰かのところに居るって噂を聞いたからね、上弦をみんな呼び出してみたんだよ」
私は頷きながらも、上弦のみんな、という表現に違和感を覚えた。みんなと言いながら、この場に居るのはたったの3人だ。確か上弦の鬼は6人いるはず。
「他の上弦の鬼の方々はどうしたんですか?」
言ったら、童磨さんはわずかに目を細め、ふうんと口にした。なんだか含みを持った態度だ。まるで観察しているみたいな、私を測っているみたいな。
「他の面々は先に来て、唯一ちゃんと一緒じゃないって分かったからすぐに帰って貰ったんだ」
表情こそは柔和なものの、その瞳は酷く冷静で、すごく居心地が悪い。私は思わずぐっと言葉を飲み込んでしまう。
しん、と静寂がおとずれる。童磨さんがずっと話をしているから、童磨さんが会話を止めると、それだけで静寂が場を満たしてしまうのだ。
童磨さんは私を上から下まで見て、愉快そうに目を細めた。
「唯一ちゃん、鬼のことをよく知っているんだなぁ」
「……そんなことありません。私は鬼についても、無惨さまについても、全然知りません」
本当に、私は何も知らない。それはきっと、無惨さまは多くを語らないから、そして私も詮索しないから。そうやって過ごしてきたから。
あはは! と童磨さんは笑う。いまの話の中で、笑う要素が果たしてあっただろうか。
水面下の小競り合い、奇妙な腹の探り合い。まるで孤児院にいた頃みたいで、私は僅かながら胸にわだかまりを感じ始める。
「君は自分がどれだけ数奇な人間か、理解していないんだね?」
私は眉を寄せ、童磨さんを見た。
「じゃあ証明してあげるよーー」
虹色の瞳、ぐにゃりと揺らめく、輝く。
瞬きの間に童磨さんは私との距離を詰めると、手を握り、顔を寄せてきた。
「ーーAちゃん」
そしてそう口にした瞬間、視界いっぱいの虹色は跡形もなく消え去った。
「……え?」
大きく目を見開くも、ついさっきまで目の前にいた童磨さんの姿はない。周囲を見回してもいない、ただ猗窩座さんは少し嫌そうな顔をしているだけ。童磨さん、と掠れた声で呼んだとき、低い低い声が響いた。
「ーーA」
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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時