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「……何か、声が聞こえたから、ようやく起きたかと思って部屋に来たら……」

 来たら、私に無惨さまと間違われた。
 困惑した様子を声色に滲ませる猗窩座さん。私はうろうろと視線を下げて、少しだけ寂しさの滲む胸を押さえた。

「……夢を、見てました。腕掴んじゃってごめんなさい」

 言って、手を離して、私は少し笑った。
 私は私が思うよりもずっと、無惨さまのそばにいることが当然になってしまっていたのだ。だから寂しく思っている。少なくとも、夢に見るくらいには。

 あ、と少し声を漏らして、私は自分が寝台に寝ていることに気がついた。確か私は机で寝てしまっていたはず。

「寝台まで運んでくれたんですね。ありがとうございます」

 言うと、猗窩座さんは首を傾げた。

「俺は何もしていない」

 私は目をぱちくりさせた。じゃあ私が自分で寝台に移動したとでも言うのだろうか。
 そのとき私の視界に、違和感が飛び込んできた。
 違和感、それは机の上にある綺麗に畳まれた一枚の紙。

「……あ」

 慌ててそれを手に取り、納得した。


 夢は、夢ではなかったのだ。


「……それは何だ?」

 状況を飲み込めずにいる猗窩座さんに、私はえへへと緩みきった頬で見せた。

「お手紙、です」

 更に首を傾ける猗窩座さん。
 お手紙、それは私が宛先も分からず机の上に放置していた無惨さまへの手紙への、お返事。
 まごうことなき、無惨さまがおとずれた証拠。

「うへへ」

 それを胸元に抱きしめて、緩みきった頬で猗窩座さんに笑いかけた。ら、猗窩座さんに驚いた顔をされた。

「……普通に、慕ってるんだな」

 そんなふうにもごもごと呟いて、猗窩座さんはなんだかバツが悪そうに部屋から出ていった。
 私はなぜかすこし丸められたその背中を見送った。黒い線の走る背中、大きく、しかし同時に小さなその背中を。

「…………」

 私は視線を下げ、無惨さまからのお手紙を開いた。それはわざとらしく異国の文字で書かれていて、私は目を細めてそれを読んだ。

『相変わらず、寝ているときは大胆だな』

 ぎゃふん。
 実際はどうだったか分からないけれど、そんな感じの声が私の身体から発せられて、今度こそ慌てた顔の猗窩座さんが部屋に飛び込んできたのだった。
 
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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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