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血の巡り、それは身体の隅から隅まで酸素を運ぶ人間の身体の仕組み。産まれながら人間に備わっている高等な機能。
それが私は、普通の人とは違う特殊なものらしいのだ。
「人間のなかには、呼吸の仕方で血の巡りを操作し、身体の能力を強化する者が居る。お前がやっていることも、おそらく同じだ」
一度の呼吸で多くの酸素を吸収し、筋組織へ送ることで、身体能力を向上させる。嘘みたいだけれど理屈では確かに通じる。それと同じようなことを、私もやっている? そんな馬鹿な!
「どういうことです、猗窩座さん。私はむしろ身体の能力が人より劣っているのでしょう? まさか、逆に身体に多くの酸素を送らないような血の巡りをしているとでも言うんですか」
そのまさかだ、と猗窩座さんは言った。
お前は身体に送る酸素の量を必要最低限で制限している。その代わりーー
「ーーここへ、酸素を送っている」
ここ、と言いながら、猗窩座さんは私の頭をこつんと突いた。ここ、つまり頭、更に言うならば脳みそ。意味を理解し、私は目を見開いた。
「……思い当たる節がある顔だな」
ある、思い当たる節、たくさん。むしろ思い当たる節ばっかりだ。
◇
蘇る記憶は、私の幼い頃のもの。
まだ私が今の年の半分ほどだった頃。
私が孤児になって引き取られたのは、偶然にも英国の血の流れる孤児院だった。お寺とかが一般的ななか、私は世にも珍しい教会を母体とする孤児院に引き取られたのだ。
そこで私は、生まれて初めて洋書に出会ったのだ。それは孤児院で埃を被っていた聖書。和訳と、その他の国の言葉とで書かれた聖書であった。
私は幼い頃、それらをひたすらよんでいた時期がある。何をするでもない、ただ読んでいた。外で遊ぶことも、同じ孤児院の仲間と話すこともせず、ただ読んでいたのだ。
そうしたらだんだんと、異国語の規則が分かってきた。砂糖が甘いのと同じように、異国の言葉にも理があって、私はそれを汲み取っていくことで、異国の言葉であろうと内容を理解できるようになっていった。
そして私は自分が幼いながらに異国の言葉を読めることを、異常だなんて思っていなかった。だから、私は自分が人と違うなんて、考えなかった。
けれど、大人は違う。
大人のなかには、私を気味悪く思う人が少なからず居たのだ。
思えば私はその頃から、他の子どもよりも身体を動かすことが好きでは無かったような気がする。
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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時