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「あぁ、そうだ。A、これを食べろ」
並べられた食事を指差し、軽く言う無惨さま。私はむすっと尖らせていた唇を緩め、目を見開いた。
「えっ、私が食べていいんですか?」
「食べたくないなら捨てる」
「たた、食べます! 食べさせてください!」
お皿を手にかけた無惨さまの腕に飛びついてお椀を机に戻す。私はそのまま無惨様を見上げ、赤く濡れた瞳をじっと見る。
「本当に、良いんですよね……?」
無惨さまは片眉を上げて、やっぱり軽く「良いぞ」と言う。
「やった! ありがとうございます、無惨さま! 大好き!」
わっと抱きついて、ぎゅうと力を込めて、ぱっと離してご飯と向き合う。
孤児として生きてい頃、私は日々食べるものに困っていた。無惨さまに引き取られて以来、食べるものには困っていないけれど、それでもやっぱり食べることが大好きだった。
食べることは生きること。
お腹が満ちれば幸せも満ちる。
「いただきまーす!」
私は箸を手に取り、焼き魚を口に運ぶ。ほろろと身が口の中でほどけ、ほどよい塩っけが舌の上で遊ぶ。
「んん……美味しい! 美味しいです、無惨さま。……無惨さま?」
見ると、無惨さまはなぜか部屋の角の、私からすごく遠い位置に不自然な方向を向いて立っていた。
「どうかなさいましたか、無惨さま」
不安になって呼びかけると、いつものツンとした無惨さまの顔がこちらを振り向いて、近寄ってきた。何でもない様子にちょっと肩をすくめるけれど、無惨さまが私の隣の椅子に腰掛けたので、お味噌汁に手を付けることにした。
「おいひぃ……」
芳醇な味噌の香りを存分に味わっていると、穏やかな顔の無惨とふと目が合う。えへへ、と私が笑うと、無惨さまは私の頬に手を伸ばして、ご飯粒をつまんだ。そしてそのまま私の口元に指を近寄せるので、私は口を開いて、無惨さまの指ごとご飯粒を食べた。
「食い意地だけは誰にも負けないな」
もぐつく頬をつつき、無惨さまは薄く笑う。
「食べられるうちに食べておかないとですから!」
「考え方が野生の肉食動物だな」
ごくんと魚を飲み込み、ふと考える。
無惨さまは、人間を食べる。普通のご飯は食べない。
私が食べている姿を見て、どんなことを思っているのだろうか。
まあ、考えるだけ不毛というやつだろう。
無惨さまの真意なんて、いつだって分からないのだから。
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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時