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 そう言われて初めて、私が鬼たちの間で『あのお方の唯一』と呼ばれていることを知った。無惨さまの唯一、唯一のなに、とは言わないけれど、ともかく私は無惨さまの唯一らしい。

「俺はあのお方について知ってることなんか殆ど無いが、お前みたいなヤツは異例だ」

 実を言えば、考え無くもなかった。
 無惨さまは気が遠くなるほど長く生きている人だから、私の前にも同じように無惨さまのおそばにいる人間がいたんだろうなぁ、と。
 でもどうやら違うらしい。
 私は嬉しさと恥ずかしさとで顔が赤くなるのを感じ、猗窩座さんから目をそらした。



「猗窩座さん」

 机の上にうずくまり、じっとこちらを見下ろす猗窩座さんにそう呼びかけると、彼は目をそらすことなく「なんだ」と呟いた。

「お掃除するだけなので、見てなくても大丈夫です。猗窩座さんも自由に過ごしてください」

 私が畳を拭く手をとめ汗を拭うと、猗窩座さんは表情を変えないまま「そうもいかない」と口にした。

「どうしてです?」
「それはお前が弱者だからだ。弱者はすぐ死ぬ。お前はまだ死んではいけないから見張っている」
「……」

 弱者、というあんまりな物言いに私は少し眉を寄せる。

「それならば、私が弱者ではないと証明してみせますよう」

 低い私の声に、猗窩座さんは興味を持ったようで、器用に片眉を上げた。そうだ、無惨さまは居ないけれど、せっかく普段話すことのない猗窩座さんという人と交流できるのだ。楽しまないと勿体無い。

「私と勝負しましょう!」

 意気込んで飛び上がりながら立ち上がったら、まだ乾いていない畳に足を滑らせ、視界がぐんと低くなった。転ぶ、と思った瞬間、力強い腕に抱きとめられる。

「…………」

 ほらな、という顔の猗窩座さんが私を至近距離から見下ろす。私は恥ずかしくて目をそらす。

「転んだだけで人間は死ぬ。今のお前もすぐ背後に死が迫っていたな」

 猗窩座さんは私を丁寧な動きで床に下ろすと、ふっと馬鹿にするように笑った。

「証明するのだろう? 己が強者だと」
 
 私は口をへの字にして頷いた。この人は思ったより手強いかもしれないな、なんて心の中で考えながら。

 猗窩座さんの瞳に記された『参』に、不意に無惨さまを感じた。離れた寂しさも、再会した喜びに変えることができるよう、私は無惨さまの安全を毎夜祈ることを、心に決めた。


 *

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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