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「……えっと……そう、さよ子! どうやら俺、さよ子ちゃんの両親のことを知ってたみたいです」

 虹色の瞳をきらきらと輝かせ、正座のまま何もない空虚を見上げる童磨。童磨はなにも、独り言を言っている訳ではなかった。童磨は自分に血を与えた上司へ、先日唐突に与えられた人間についての報告をしているのだった。

「あの子の母親が信者で、たしか父親は愛人がいっぱいいて、どうもぼろぼろな家族だったらしいですね」

 童磨は怯えた顔の黒髪の少女、さよ子のことを思い出し、眉を垂らした。

「あぁ……なんてかわいそうな子……」


 上司からの指示は、「二度と我々の目に触れぬよう処分しろ」という至って簡潔なものだった。童磨は勿論承諾した。そして『我々』と複数名詞にしたあたりに、概ねの状況を察知していた。
 我々とは、童磨の上司と、いつも彼のそばに居る鬼の間で噂の人間の少女のことだろう。

 謎めいた少女、名前をA。
 姿のみならば一度、童磨も見かけたことがあった。年端もいかない人間の少女が唐突に襖を開き、上司に向かってしょうもない駄洒落を言い放ったのだ。童磨も含め誰もが、少女が殺されることを疑いもしなかった。普段の上司ならばそうした。
 しかし予想に反し、上司は薄く笑うと、Aに対し親愛の垣間見える言葉を投げかけた。

 それ以来、童磨もAという少女に対し興味を持ったけれど、それを表に出せるはずも無かった。上司は明らかにあの少女に執着心を向けていた。少なくとも、たった数秒の会話にその執着を感じ取れるくらいには。


 おそらく、と童磨は考える。
 おそらく、さよ子は哀れにも当て馬に使われたのだろう。望む方向へ物事を運ぶために、上司が用意した当て馬。使い終わったら処分される。
 ただそれだけ。

「……かわいそうに」

 さよ子は童磨の説明を聞いて、目を見開き、震えわななき、とうとう泣き出した。
 己が罵倒した人間が、どれほど大切にされていたのかを。そして己がすり寄った鬼が、どれほど血も涙もない存在であったかを、ようやく知ったのだ。加えて自分は、ただ利用されていただけに過ぎないことも。

「もう悲しまなくて良いよ、さよ子ちゃん。俺が君を食べてあげるんだから、何も悲しいことはないんだぜ」

 悲鳴を上げるさよ子を、童磨は抱きしめた。
 ごきり、と鈍い音がした。




「……ふむ」

 上司は童磨の報告に、無関心そうにその言葉を残すのみであった。

 *

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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