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 無惨さまはさよ子に部屋を与えた。
 私のご飯のときも、掃除のときも、いつでもさよ子が一緒に過ごすようになった。
 最初こそ、さよ子は従順に過ごしていた。無惨さまを月彦と呼び慕い、無惨さまがそれに軽くなりとも応答する。それに慣れていったのかなんだか、次第にさよ子の心が変わっていった。

 さよ子は、私を好敵手だと思うようになっていったのだ。私に対して露骨な敵対心を見せてくる。

 私だって、少なからずさよ子の存在にもやもやするものを持っていたから何も文句なんて言えないけれど、段々とそれが露骨になってきているような気がするのだ。

「ねぇA。あなたも月彦さまの非常食なの?」

 さよ子が掃除をする私を見下ろしながら聞いてくる。

「違う、と思う。少なくともむ……月彦さまに食べられそうになったことはない」

 理由は分からないけれど、さよ子の前では無惨さまと呼ばないよう言われている。さよ子は月彦という名前が無惨さまの数ある名前の一つに過ぎず、なおかつあの黒髪のうねった姿も同じく数あるなかの一つに過ぎないということを知らない。

 だけどさよ子はある事に気づいている。
 ある事、それは私と無惨さまは言葉にならない繊細な関係にあるということ。
 無惨さまがいつか私を食べるのか、はたまた鬼にするのか、否か。真意は無惨さまのみぞ知る。
 しかし、たとえ私が従順なエサなのだろうと、洋書が読める使い捨ての駒なのだろうと、この際関係ない。
 ただ私は、無惨さまの一番そばに居たいのだ。
 私の心の一番そばに無惨さまが居てくれるように、私も無惨さまの心に寄り添っていたい。

「じゃあAは今からお前を食べるぞって言われたら、受け入れられる?」

 私はわずかに瞳を揺らした。
 おそらくこの感情は、食べられることへの恐怖でも、無惨さまへの恐怖でもない。
 もっとずっと違うもの。
 さよ子はそれを己に都合よく解釈したらしく、鼻で笑ってみせた。

「月彦さまはきっと私のほうが好きなのよ」

 Aはじきに捨てられるわ、と付け加えると、部屋に入ってきた無惨さまのほうへ駆け寄った。そして飛びついて、抱きついて、きゃんきゃんと声をあげた。

「月彦さま! 今日こそ私を味見してくださいませ」

 無惨さまは馬鹿にするように笑う。
 そして私の方を見て、ちょっとだけまた愉快そうな顔になった。さよ子もちら、とこちらを振り向いて、あくどい笑みを浮かべるのだった。

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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