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 さよ子と名乗る彼女は語る。
 いわく、それは月の出てない夜のこと。

「私、夜の学校に忘れ物を取りに行ったんです。明日提出しなければならない課題の入った鞄をうっかり忘れてしまって……」

 校舎に入ってすぐさよ子は、こつ、こつ、と高く校舎に響く足音を聞いた。後を追うようなぴちゃ、ぴちゃという水音も。
 息と身を潜めたさよ子は曲がり角、視線の先に広がる景色に目を見開いた。

「……月彦さま、血を被った貴方様が遺体を運んでいるのを見たのです」

 あぁ、と無惨さまは片眉を上げる。

「あのときの鼠か」

 鼠? と首を傾げるさよ子。
 無惨さまはそれに対して返事をしない。が、おそらく無惨さまは、そのとき誰かが自分を見ていたことに気がついていたけれど、無視していたと言いたいのだろう。
 ぱちくりと黒く丸い瞳で無惨さまを見上げるさよ子、私はいまだ言葉を発することなく二人の会話を眺める。そしてふとした拍子に、無惨さまが愉快そうな顔をしているのに気がついた。

「なるほどな。これは気分が良い」

 その言葉に、私は胸のうちの雲がより一層暗く、重くなるように感じた。対照的にさよ子の顔はぱあと明るいものとなり、舌を転がすようにころころと話をする。

「私は貴方様を見たその瞬間から、貴方様に心を奪われたのです! あの夜から貴方様にお会いしたいと思わない日は無かったのです」

 熱っぽい言葉。無惨さまはちら、と私を一瞥すると意味深げに薄く微笑んだ。

「それで、お前は私に何を望むというのだ?」

 さよ子は上ずった声をあげ、より一層前のめりに無惨さまに近寄る。思わず私の手が伸びそうになるけれど、既のところで留まった。

「私を、月彦さまのお側に置いてください!」

 胸中には雷鳴が轟いていた。嫌だ、という思いがふつふつと湧いてくる。私は眉を寄せて無惨さまを見るけれど、無惨さまは薄く笑うばかり。

「……私は人の血肉を食する鬼だ」

 さよ子が興奮したように息を呑む。

「食料としてならばこの屋敷に置いてやっても良い」

 さよ子ははいっ! と高い声をあげた。

「私を非常食としてそばに置いてください!」

 私はその場で崩れ落ちそうになるけれど、なんとか耐えた。

 新しい風、名前をさよ子。

 こうして、彼女は唐突に私と無惨さまのもとへ吹き込んできたのだ。

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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