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 かびや埃の臭いが鼻をつく。ぬるい風が頬を伝う空間で、私はくぐもった声を上げた。
 反響する音の様子からしてそこそこ狭い空間。床は少し動くだけで軋むようなぼろぼろの木、風の音に紛れて水の流れる音がするから、ここは川のそばだろう。陸太郎が私一人をかかえて大規模な移動が出来るとは思えないから、この川はたぶん茶屋のある街のすぐそばを流れる川……。
 そこまで状況を判断して、私は屋敷に帰る道の途中、川辺にある寂れた木造の小屋を思い出した。おそらく私は、そこにいる。

 それが分かったらようやく冷静になってきた。冷静になってきたら、小さな疑問がふつふつとわいてきた。

 なぜ陸太郎は私をこんなところで縛っているのだろう。
 なぜあんなにも喜んでいたのだろう。
 陸太郎が……事件の犯人なのだろうか?

 考えて、少しゾッとした。陸太郎の笑顔の裏側には狂気的な面があったのだろうか。あのとろけた歪な笑顔で、他の女の人も拐っていたのだろうか。
 小さく身震いしたら、床が軋んで不気味な音を立てた。言いようのない不安が私の胸に広がって、自ずと無惨さまのことを思い出した。


 ……無惨さま、呆れたかなぁ。
 街に行くなって言った次の日に、置き手紙を残して帰ってこないんだもん。部下に厳しい無惨さまだ、きっと呆れきっているだろう。


 ……捨てられたら、嫌だなぁ。


 腐った夜の街で出会ったあの日からずっとずっと、私は無惨さまのAだった。他の誰でもない、無惨さまのA。
 無惨さま、無惨さま。

「……」

 ……会いたい。
 今すぐ無惨さまに会いたい。
 
 そんな情けないことを考えていたら、じわ、と目に熱いものが滲んできた。唇を噛み締めて、なんとか耐える。
 と、ぎい、と音がして誰かが入ってくるような音がした。

「あ……A、起きたか?」

 陸太郎の声だ。
 私が返事をしようと声を発するけれど、布に遮られもごもごした音しか出ない。

「んー!」
「何を言ってるかわかんねぇや……今外すから、ちょっと待ってな」

 布をとかれ、私は少し咳き込んだ。いたわるように私の背を撫でる陸太郎の手が忌々しい。私は陸太郎の声がするあたりを睨みつけると、掠れた声に怒りを込めた。

「……今すぐ、私を開放して!」

 真っ暗な視界の中、陸太郎の息を呑むわずかな声だけが聞こえてきた。

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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