19 ページ20
*
「仮にその青年が鬼を犯人だと思っているとしたら、そいつはまず間違いなく鬼殺隊だな」
「鬼殺隊……?」
「あぁ。それは後で話そう」
無惨さまがぱちん、と一回指を弾いたら、まばたきする間に部屋のつくりが変わって、私と無惨さまは書斎の革張りの椅子の上にいた。
無惨さまは私を膝の上に乗せたまま、机上の真っ白な紙にさらさらとペンを滑らせる。
「一つ二つ、Aが勘違いしていることがある」
無惨さまが書いているのはどうやら白地図で、大まかな地図を書き終えると、仕上げに一点を赤く目立たせた。
「まず一つ、私は鬼のボスでは無いから、鬼が何をしようとも、私が捕まるということはない。そもそも捕まるという概念が存在しない。概ね、捕縛しようとする人間を殺すか殺される」
言いながら、無惨さまはぽつぽつと紙に点を増やしていく。
「もう一つ、Aや数名の町人は犯人を鬼だと疑っているらしいが、それらは鬼がやったことではない」
え、と私は顔を上げた。
私は鬼の犯行だとばかり思っていたので、無惨さまの意見はあまりに新鮮だった。
「私はすべての鬼の行動を把握している。私の支配下にある。例外もあるが……それはまあ違うと言って良いだろう」
印象的だったこと。
それは、語る無惨さまの目がかつてないほど冷たいものだったこと。
「この周辺の地図だ。Aがよく行く街はこの赤い場所だ。そしてこの黒い場所に鬼がいる」
言って、指さすそこには先程無惨さまが書いた地図が。私はしばし言葉を失ってその地図を見ていた。赤い丸を避けるように黒い点が集まっているからではない。無惨さまが抱えたはかり知れない暗いものに、ほんの少しでも触れてしまったからだ。
「街から近い位置に鬼はいない。故にあり得る可能性は、人間の独自の犯行のみだ」
無惨さまの言うとおり、赤い点の周りに黒い点は無い。むしろ、避けるように赤い点を中心に円を描いているようにさえ見える。
「A、しばらくは買い出しには行かなくていい」
もう一度指をパチンと弾いたら、今度は私の部屋にいた。無惨さまはクローゼットの扉を開けて、まだ私が着ていない大量の服の一着を掴むと、私に投げる。
「これを着て良い子にしているんだ。いいな?」
「……考えておきます」
恒例の私の返事に無惨さまは軽く笑うと、部屋から出ていった。
*
2744人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時