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「……ブルーリコリスラジアータ」

 呟いて、英文に目を通す。ブルーのリコリスラジアータ、つまり青い彼岸花。なんでも無惨さまは長い間それを探し求めているらしい。だから私を拾い、洋書にも手を伸ばし、情報を集めている。
 果たして青い彼岸花がどんなものなのか、私は知らない。それどころか、なぜそれを探しているのか、どうしてこんなにも見つからないのか、そもそも青い彼岸花なんて存在するのか、私はなんにも知らない。それでも私は無惨さまのために洋書を読んでは、内容を要約し、最後に一言付け加える。

「出てこなかった無かったですよ、青い彼岸花」

 何度この言葉を口にしただろう。

「そうか」

 いつものように、無惨さまは表情を変えることなくそう呟く。
 一度、試しに冗談で「出てきましたよ、青い彼岸花! あ、違った、白い秋桜でした!」とか言おうと思ったけれど、出来なかった。
 この青い彼岸花は、無惨さまの触れてはいけない神聖な何かのように感じたのだ。

「……」

 繰り返す日常の中。
 私はこの3年間、常に無惨さまと一緒にいた。常に一緒にいて、片時も離れることは無かった。どこか遠くへ出かけるときも、『月彦』とか『俊國』とかになりきって人間に紛れるときも。偉い鬼が集まる会議のときですら、無限城に一緒に連れて行かれ、好きなように過ごしていろと言われるのだ。
 無惨さまとずっと一緒に過ごす代わりに、私は他の鬼の人たちと交流することはほとんど無かった。もちろん、人間とも。
 強いて言えば、迷子になったときに道を尋ねることがある偉い鬼の人たちや、鳴女さんくらいだった。

 だから正直、街に買い出しに行けって言われたときは心底驚いた。というか、沈んだ。
 今から約数ヶ月前のことだ。唐突に、無惨さまから告げられたはじめてのおつかい……。

「A。明日ひとりで街へ下りて本を買ってくるんだ」

 は? と思わず聞き返してしまった。

「すみません、無惨さま、もう一度言っていただいても良いですか? どうやら私、幻聴が聞こえてるみたいで……」

 無惨さまは私の失礼極まりない返答にも大して気にした様子なく、もう一度答えた。

「明日、街へおりて、本を買ってくるんだ。一人で」

 ぎゃん、と身体中を走る衝撃たるや!
 私は小さくわなないて、無惨さまの切れ長な瞳を言葉無く見つめ返した。

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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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