14 ページ15
*
「……ブルーリコリスラジアータ」
呟いて、英文に目を通す。ブルーのリコリスラジアータ、つまり青い彼岸花。なんでも無惨さまは長い間それを探し求めているらしい。だから私を拾い、洋書にも手を伸ばし、情報を集めている。
果たして青い彼岸花がどんなものなのか、私は知らない。それどころか、なぜそれを探しているのか、どうしてこんなにも見つからないのか、そもそも青い彼岸花なんて存在するのか、私はなんにも知らない。それでも私は無惨さまのために洋書を読んでは、内容を要約し、最後に一言付け加える。
「出てこなかった無かったですよ、青い彼岸花」
何度この言葉を口にしただろう。
「そうか」
いつものように、無惨さまは表情を変えることなくそう呟く。
一度、試しに冗談で「出てきましたよ、青い彼岸花! あ、違った、白い秋桜でした!」とか言おうと思ったけれど、出来なかった。
この青い彼岸花は、無惨さまの触れてはいけない神聖な何かのように感じたのだ。
「……」
繰り返す日常の中。
私はこの3年間、常に無惨さまと一緒にいた。常に一緒にいて、片時も離れることは無かった。どこか遠くへ出かけるときも、『月彦』とか『俊國』とかになりきって人間に紛れるときも。偉い鬼が集まる会議のときですら、無限城に一緒に連れて行かれ、好きなように過ごしていろと言われるのだ。
無惨さまとずっと一緒に過ごす代わりに、私は他の鬼の人たちと交流することはほとんど無かった。もちろん、人間とも。
強いて言えば、迷子になったときに道を尋ねることがある偉い鬼の人たちや、鳴女さんくらいだった。
だから正直、街に買い出しに行けって言われたときは心底驚いた。というか、沈んだ。
今から約数ヶ月前のことだ。唐突に、無惨さまから告げられたはじめてのおつかい……。
「A。明日ひとりで街へ下りて本を買ってくるんだ」
は? と思わず聞き返してしまった。
「すみません、無惨さま、もう一度言っていただいても良いですか? どうやら私、幻聴が聞こえてるみたいで……」
無惨さまは私の失礼極まりない返答にも大して気にした様子なく、もう一度答えた。
「明日、街へおりて、本を買ってくるんだ。一人で」
ぎゃん、と身体中を走る衝撃たるや!
私は小さくわなないて、無惨さまの切れ長な瞳を言葉無く見つめ返した。
*
2743人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時