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ゆるやかに、しかし刻一刻とときは流れゆく。
無惨さまに拾われ、約3年が過ぎた。
自分の年齢を把握していないから憶測に過ぎないのだけど、多分私は14歳を超えた。つまり、世間一般には成人していて、中には結婚する人もいるくらいの年齢になった。
しかし私と無惨さまの関係は未だ変わらず、私は無惨さまのAとして、洋書を読む日々を送っている。
唯一変わったことといえば、近頃、無惨さまに街への買い出しを頼まれるようになったくらいだ。無惨さまいわく、街を歩くのはいろいろと面倒なことがあるらしい。
今日も例に漏れず、私は街へ買い出しに向かっていた。無惨さまは月彦の屋敷へ行くらしく、買い出しが終わったらきちんと屋敷に帰ってこい、と今までに300回くらい言われたことをまた言われた。私は301回目の「分かりました。ちゃんと帰ってきます」という返事をして、お金を渡され、送り出される。
今日は、古書店にある洋書をいくつか見繕ってこいと言いつけられている。私が読んだことのない本ならなんでも、何冊か買ってこい、と。
私は街に一つしかない古書店の奥で、誰にも手に取られず埃を被りきっている本たちをいくつか抜き取ると、それらを買った。
任務完了、屋敷へ戻る道のりをふらふら歩いていたら、ふといい香りに鼻を突かれて、私は甘味屋に立ち寄った。
「あ、A! いらっしゃい!」
店員の青年が軽快に笑ってそう話しかけてくれる、名前を陸太郎。走るのが速いという特技を持つ彼には、私が財布を落としたとき、後ろから走って追いかけてくれたという恩がある。ゆえに私達は互いを見かけるたびに少し話をする仲になっていた。
「陸太郎、ここで働いてたんだね」
浅黒く焼けた肌に人の良さそうなえくぼ、私が近寄ると目を細め犬みたいに笑った。
「まあね。……今混んでるから、外で食う? それとも待つ?」
「いや、相席で大丈夫」
言いながらすたすた歩いて、混雑している店内で唯一相向かいの席があいている人のところへ行く。
「すみません、相席よろしいですか?」
私の言葉に男の人は顔を上げた。黒髪に切れ長の瞳、整った顔立ちはさっぱりとしていて、落ち着いた雰囲気をまとった人だった。
「……どうぞ」
控えめな声は水の流れを彷彿とさせる。私はありがとうございます、と笑って、男の人と机を挟んだ席に座った。
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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時