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 死臭のたちこめる夜の街。

「お買い得ですよう、お兄さん」

 うねうね癖の強い髪、圧倒的美形、堂々たる立ち振る舞いに梅干しみたいな綺麗な目をした男性に、私はそう、声をかけた。
 腐った街に溶け込めぬ雰囲気を身にまとう彼は、まず間違いなく、お金持ちだと、私のお金持ち探知機が反応したのだ。

「今ならもれなく、この超優秀な孤児がなんと無料で貰えます」

 文字が読めるサービス付きですよ。
 お買い得ですよ。

 商品は私、孤児のA。
 胸を張ってアピールをしたら、男の人は片眉を上げた。

「奇妙な子だ。……汚いが、ずいぶんと賢いようだな」
「おや、お兄さん、お目が高い! 私はなんと、異国の文字も読めてしまうんですよ? どうです、ほしくないですか?」

 男の人は異国の文字、に反応したらしかった。
 ふむ、と言葉を漏らし、顎に手を当て、軽く微笑む。

「ちょうど良い、洋書を読める者が居らず、手に困っていた」

 男の人は私の首根っこを掴むと、顔をぐっと寄せ、薄笑いを浮かべた。
 月を砕いて散らしたように、男の人の瞳孔が煌めく。

「……私のものになるからには、絶対の忠誠を誓うんだ。そうでなければお前は土に還ることになる」

 ぎらぎらと攻撃的な視線、言葉。
 私も負けじとぐっと顔を近寄せ、鼻先をくっつけ、不敵に笑ってみせた。

「もとより私は血と肉と忠誠心で構成されているような人間です。あなたの期待に答えると誓いましょう」

 胡散臭い、と男の人は顔をしかめる。
 しかしそうは言いながらも、男の人は私を好奇心に満ちた目で見ている。

「お前、名はなんだ」
「Aです。ただのA、これからはお兄さんのAになります」

 両手を広げて見せたら、男の人は片眉を上げた。

「悪くはない響きだな」
「でしょう」

 死臭を払うように、男の人が手を振る。
 その一瞬で世界は傾き、ぐにゃりと曲がり、気がつけば清潔そうな和室にいた。
 これはびっくり、お兄さんは魔法使いなのか。

「私は鬼舞辻無惨。始祖の鬼にして絶対の存在」

 ……鬼。
 私の声に、鬼舞辻無惨は微笑んだ。

「なるほど」

 どうやら私のお金持ち探知機はもっとヤバイ人に反応してしまったらしい。


 そんなこんな、その日から私は、鬼舞辻無惨のAとなったのだ。


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モブちゃん - 無惨様、優しい!マジで素敵な作品です。更新、頑張ってください。 (2020年11月8日 21時) (レス) id: 2f84cbf165 (このIDを非表示/違反報告)
かめ(プロフ) - 無惨様大好きです!というか鬼陣営好きすぎるので、鬼贔屓な作品は本当に嬉しくて…しかも内容も面白く!素敵な作品ありがとうございます! (2020年7月6日 22時) (レス) id: 0b12b82150 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 好きですありがとうございます (2020年4月25日 3時) (レス) id: aef362accb (このIDを非表示/違反報告)
きの(プロフ) - そこらへんの小説なんかより面白すぎて泣いてます…天才ですか…?! (2020年3月24日 22時) (レス) id: 2bb340e5dc (このIDを非表示/違反報告)
hina - ああああああ神なんですか!?いや神なんだよねそうに違いない (2020年1月20日 18時) (レス) id: c01e14d75d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2019年10月22日 21時

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