第三十五話 ページ36
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雨が激しく降り注いで、見上げる私の眼球を濡らす。この大雨だからか、歩く人影はおろか、車が通る気配すらない。
頬をあつい風が吹き抜け、衝撃音が鼓膜を揺すぶる。鼻の奥を焦げた匂いが突き刺して、視界に青い炎が映る。荼毘さんが、戦っている。争っている。激しい音を立てて、個性を使って、憎しみを持って。
胸がぎゅっと苦しくなった。拭う手を持たない涙が頬を一筋伝って、雨とまざって分からなくなった。
喧嘩は、しないで欲しい。仲良くしてほしい。なんて、安っぽいお願いかもしれないけれど、願ってしまう。
喧嘩は良くない。
喧嘩をする互いはもちろん、それを見ている人の心も駄目にしちゃうから。
「……ひゃっ！？」
ずぶずふと、突然、私の身体が泥に飲み込まれ始め、私は固く閉じていた瞼を弾かれたように開いた。さっきまでよりもずっとすばやく私は泥に埋まっていって、気がつけば私は喉もとすべてが道路の中にある。混乱の中、霞む視界、せめてもの願望で手を伸ばし、気がつけば名前を呼んでいた。
「ト、ラさん……」
顔までが泥に飲み込まれ、息苦しさで意識を手放す間際。温かい手が、私の指に絡められるように感じた。
◇◇
両親は、しょっちゅう喧嘩する人たちだった。だから私が成長するにつれ、父は家を離れがちになり、遂には出ていってしまったのだろう。あんなにも嫌っていたのに、まるで父のいない家にはもう用は無いとでも言うように、あまり母も家に帰ってこなくなった。
喧嘩の声は、黒い絵の具みたいなものだ。
その喧嘩を見たり、聞いたりしている人にまで当事者の苛立ちや怒りが伝染する。黒い絵の具に触れた瞬間、透明な水滴が黒く濁るように。
布団にくるまり、耳を塞ぐ。
何も見ない、何も聞かない世界は平穏で恐ろしく孤独だ。
喧嘩は嫌だ。言い争いは嫌だ。
だけどそれ以上に、それを止められない、布団にくるまって逃げているだけの自分は、もっと嫌だ。
どうして母は、父は、言い争いをするのだろう。どうして普段はあんなにも穏やかな母は、父に対してあんなにも憎たらしいものを見るような目をするのだろう。
お父さんの個性を継いだのね、と言った母の笑顔は、どこへ。
頬を撫で、額をなぞる指の感触。それに引きずり出されて目を開ければ、目と鼻の先にトムラさんの顔があった。そして彼は、ホッとしたように笑った。
「よく寝たなぁ」
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ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
