第三話 ページ4
*
先生の話を右から左へと流しながら、私はぼんやりと心ここにあらずでいた。
授業が頭に入ってこない。数日前に出会った、あの傷だらけの人が気になって仕方がないからだ。怪我を心配するにしては、やけに自分の心がざわざわする。不思議だ。
何はともあれ、今日もあのバーに行く日なので、黒霧さんに怪我の経過を聞くことができる。私は授業が終わると、一目散にバーへと向かった。
ぼんやりとした室内に入り、一番最初に目についたのは、トランプでできた三段ほどのタワーだった。私はひゅっと息を呑むと、そのトランプタワーに近寄った。繊細な揺れを過敏に感じ取るそれらを近距離で見つめる。無意識に止めていた息をふっと吐き出したとき、背後から無遠慮な声がした。
「＿＿崩すなよ」
「ひぇっ！」
パサパサ、と音を立てた。私が机にぶつかった衝撃で、トランプは塔から紙へと戻ってしまったのだ。私は申し訳ない気持ちで眉を寄せながらゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはあの傷だらけだった彼がいた。
「……あ」
かさついた唇は薄く弧を描き、赤い瞳には隠しようの無い仄暗い影がちらついていた。しかし、二足で堂々と立っているし、動きを見ていても違和感はない。目立った外傷も見られないし、血の匂いもしない。私は少し目を見開くと、彼の健康そうな様子に、肩をおろした。
「……体調は、大丈夫ですか？」
私がそう吐き出すと、彼はほんの一瞬だけ、かすかに目を瞬かせた。そうして、あぁ、だとかうん、だとかそんなような肯定の言葉を口にすると、気まずい空気を打ち破るように、ポケットに手を突っ込んだ。
「これ、お前のだよな？」
そう言って、一枚の青く萎れた花びらを取り出した。近寄って見てみる。たしかに、それは私の頭から生えた花びらだった。私が頷いたら、彼は今度はまた別の花びらを取り出した。今度はオレンジ色の花びらを取り出した。少し青がかったオレンジ色だ。私は再びうなずく。これも私のものだ。最後に彼は、真っ白な花びらを取り出した。私は一瞬うろたえるも、まごうことなき私のものであるので、頷いた。
「色が違うのは感情の質が違うからか？」
私は驚いて頷いた。すごい！ どうして彼は分かったんだろう。驚く私をよそに、彼は自分の推理を語り続ける。
「青は不安、オレンジは驚き、白は恐怖、違うか？」
確信を持った彼の言葉に、私はちょっと笑って訂正の言葉を口にした。と、なぜだか彼の表情が固まった。
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ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
