第三十八話★ ページ39
★
雨で濡れ、彼女の細い指が手の中から滑り落ちる感触が蘇り、忌々しさに手を握りこんだ。
「＿＿それで、荼毘さんに頼まれたらお部屋の掃除をするようになったんです」
死柄木の怒りを感じたのか、理由は分からずとも多少は身勝手な行動であると感じているのか、はたまた危険に巻き込まれ懲りたのか、Aは反省の色を濃く示しながらそう死柄木に説明した。実を言えば、Aが荼毘の部屋を片付けに行くまでの過程はすべて、荼毘本人に洗いざらい吐かせた。それでもなおAの口から言わせたかったのは、死柄木の単なる我儘故である。Aを把握していたいという欲を満たすための、我儘。
「次からは、黒霧さんと死柄木さんに報告してから行くようにします……」
行ってほしくないのが死柄木の本音だが、それを口に出すのは躊躇われた。なぜだろう。そんな躊躇いはとうの昔に捨てたはずなのに。自分の支配下にあるものに躊躇いなど不必要なのに、彼女にだけは躊躇われた。
「気をつけろよ、Aは弱いから、格好の獲物になる」
呑気が服を着て花を咲かせているような少女の額を叩く死柄木は、知らない。躊躇いは、大切にしたいという気持ちであるということを。わがままを伴う支配欲は、他の誰かに向ける気持ちとは違うことを。ピンクの花が咲いてしまうような、そんな感情であることを。
彼女のいなくなったアジトは静かで、寒い。ソファで横になりながら、死柄木は目を閉じた。
『……体調は、大丈夫ですか？』
不安がる瞳。虚をつかれ言葉を失う。
『……お願いします、トムラさん、仕舞ってください』
歪められた顔、悲しみが空気を震わせる。
『トムラさんが来てくれるって、信じてたんです』
微笑み、綻ぶ。そして咲いた＿＿ピンクの花びら。
死柄木は歯ぎしりをした。
知りたくもなかった、こんな気持ち。曖昧ながら強烈で、膨大に繊細なこんな気持ちを。
苦しくて苦しくて仕方がない。彼女を見ていないと、そばに居てくれないと、胸が苦しくて仕方がないのだ。
ある日、の夕暮れ。逢魔が時。
赤く染まる道、何気なく歩いていたそこに、死柄木は黒い何かを見つけた。
「どうかしましたか、死柄木弔」
彼は吸い寄せられるように近寄り、片手で拾い上げる。それは黒く濡れた、花びらで＿＿
「……っ」
黒霧は、息を呑む。振り向く死柄木のその瞳には、赤く仄暗い炎が揺らめいていたのだ。
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ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
