第十四話 ページ15
*
ある日のこと、私が毎度のごとくバーに続く扉を開いたとき、やけに静かなことに気がついた。
誰もいないのだ。
トムラさんは居たり居なかったりするが、黒霧さんはいつも居たので、彼すらもいないとなるとそれこそはじめてのことだった。
急用でも入ったのだろうか、置き手紙のようなものを探すがそれもないので、とりあえずいつも通り洗濯や掃除をすることにした。
バラバラに散らばったトランプ、脱ぎ捨てられた黒い服、トムラさんの気配を濃く残したそれらを片付けながら、私はふとトムラさんのことを想った。
不思議な人だ、トムラさんは。カサついた唇に赤い瞳、外に出るときは黒いフードを深く被って顔を出さないし、警戒心もバチバチしている。時折洗濯に出されるボロボロの服、それには誰のかも分からない血がびっしりとこびりついていることもあった。
普通の人ではないという事は分かっていた。この社会という価値観において、おそらく彼は異端児だ。
でも。
私は揃えて仕舞ったトランプを見つめた。繊細な指でトランプを積む背中、私のつくった料理をむしゃむしゃ食べるあの赤い舌、ふとした瞬間弧を描く唇。
社会という価値観を取っ払って、私は彼をどう思っているんだろうか。怖い人、と思っているのだろうか。
ドサッと音がして、黒い穴とその目の前にトムラさんが落ちてきた。肩で荒く息をしていて、目はギラギラと鋭い光を孕んでいる。
「トムラさんっ！」
近寄って分かったこと。濃い血の匂いを纏っているけれど、トムラさんは怪我をしていないこと。まるで野生の狼みたいに、鋭い警戒心と怒りとに支配されていること。
「……トムラ、さん」
私が手を伸ばし、背を丸めて立つトムラさんの髪に触れた。ピクリと肩が反応して、私ではないどこか遠くを見る瞳に、少しだけ緩やかな色が宿る。
「トムラさん」
私は、彼をどう思っているのだろうか。
トムラさんは伸ばされた私の手のひらに頬を擦り寄せると、目をつぶって、私を抱きしめた。膝から崩れ落ちるトムラさんに巻き込まれ、私も背後のソファに尻もちをつく。私のお腹のあたりに顔を寄せ、強く私の腰を抱くトムラさんの頭を、私はそっと撫で続けた。
「トムラさん」
静かに名前を呼ぶと、トムラさんはその度私の腰にまわす腕に力を込める。
私の胸に花が咲いた予感がしていた。
小さな小さな、硝子の花が。
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ちゃこ(プロフ) - うぅ…好きです！！今なら私も花咲かせられそうです😭！前から気になっていた弔くん…無事推しになりましたありがとうございます！！ (2022年5月25日 5時) (
レス) @page50 id: e4e61dc8c5 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - 完結おめでとうございます！最高でした！ (2020年8月18日 1時) (レス) id: 05ebd46207 (このIDを非表示/違反報告)
弥生 - はなかっぱ… (2020年2月4日 3時) (レス) id: 86c077b51d (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - すごく良かったです！！！死柄木君の小説は初めてだったんですけど、もう最高すぎました！！ (2019年11月5日 22時) (レス) id: a8dea294c9 (このIDを非表示/違反報告)
オーバー - 完結おめでとうございます！最後までキュンキュンさせていただきました！！ 占ツクを徘徊していた時に、とんでもなく良いこの作品を見つけてからは、ずっと応援していました(´ω`*) もちろんこれからも応援しています、頑張ってください！！ (2019年8月25日 22時) (レス) id: 50e4bb27d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2019年6月13日 19時
