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「火傷用のこの薬草は、実は日陰で育てたほうがよく育つんです」
「この花弁には疲労効果が見られているそうですから、食事に入れるのがおすすめです」
「この花、茎は毒として有名ですが、実は根にたくさん栄養があるんです。満月の日の夜にしか花が開かないことで有名です。この屋敷の庭にもありますよね」
ふうん、と相槌をうつのは、興味がないのか、はたまた普段からそうなのか。時透無一郎と名乗る少年に、薬草について話をしろと言われ説明をしているのだけど、目的が分からずに不安になる。
足音、そしてふふ、と微笑む声がして振り向けば、そこにはにこにこ笑いながら私たちを見つめるお館さまがいた。
「素晴らしいね。Aの草花への知識は大きな力になる」
「……ありがとうございます」
「こちらこそ。君が仲間になってくれて、本当に心強いよ」
いいえ、と微笑む。
「……無惨に関する情報も、ありがとう」
時透さんが、ゆるりと私を見た。
仲間になるとお館さまに告げたとき、お館さまは大いに喜んだ。その瞳には勝利への希望がきらめき、青白い顔が僅かに赤く染まった。
私は聞かれるより早く、無惨さまに関する情報を話した。例えば、日に当たることができない。例えば、人間に紛れて生きている。
どれも、鬼殺隊がすでに掴んでいる情報だと分かって教えた。信憑性を高めるために、その場で適当に作った名前を言って、無惨さまがこの人に化けているとまで言ってみせた。
「あと少しで満月だから、この花が咲いているところを見れるのかな」
時透さんは薬草図鑑を指さして、私を見上げてきた。一応聞いてたんだ、なんて思いながら私は曖昧に頷く。
満月。
私は、その日を、最後の日にすると決めていた。
「……くせぇ」
すれ違い間際かけられた声に、私は眉根を寄せて振り向いた。その瞬間、背中から床に打ち付けられ、私の首に鋭い刃が突きつけられた。
「お前、鬼くせぇ。何者だ?」
殺意に染まった瞳、顔に走る大きな傷跡、白い髪の毛。誰だと一瞬脳内を巡らせて、風柱に当たる人であると思い出した。実際に話すのは初めてだけれど、名前と評判だけは教わった記憶がある。
「Aです、最近鬼殺隊に入りました」
A、という言葉に彼はピクリと肩を震わせた。
「お前があの……」
そう呟いて、彼は私からのろのろと離れた。
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時