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 『結婚』
 その言葉が、未だ私の頭の中でぐるぐると渦巻いている。なにがそんなにも気になるのだろう。もしも私が無惨さまではない誰か結婚するとして、そのとき無惨さまはどう思うのだろうか。私は微塵もしたいだなんて思わないけれど、女の子はふつう私ほどの年になれば結婚を考えるものだ。しかし私はどうだろう。いつまで無惨さまのお側に居られるのだろう。
 ーー私が死ぬまで?
 しわしわのお婆ちゃんになった私がいつまでも変わらない無惨さまの隣にいる姿を想像する。なんだか変な感じだ。無惨さまの姿を私と同じようにしわしわのお爺さんの姿にしてみる。も、うまく想像できなかった。
 そしてそんな想像は、私の心をほんの少し、暗く湿っぽくもした。
 
 

 すっかり日が落ちた夜、私の監視の交代の時間。闇に紛れるようにやってきたのは、一人の男の人と一匹の蛇だった。

「伊黒小芭内だ」

 蛇柱、伊黒小芭内と名乗る彼は、私の隣に座る甘露寺さんから警備の報告を微笑ましそうに聞いている。その様子を見て私は直感した。

「……さては、甘露寺さんのこと、好きですね」

 甘露寺さんが居なくなった後、そう聞いてみれば、伊黒さんはこちらが恥ずかしくなるくらい狼狽えていた。



「……あの」

 縁側に並び、日向ぼっこをする蛇の頭を撫でる伊黒さんに声をかける。ちらりと視線だけ寄越すけれど、私の先の発言に警戒しているのか、その目はなんだかじとじと湿っぽい。

「伊黒さんと甘露寺さんって結婚するんですか」

 どさり。伊黒さんは縁側からお庭に滑り落ちた。私が驚いて近寄ると、耳を真っ赤にした伊黒さんに睨まれた。

「……そういうのは、両方の同意があってなされるものだ。俺は甘露寺が一番大切だから、結婚はしない」

 私は目を見開く。驚いた、だけど酷く私の心にはまる言葉だった。朧気であった輪郭がなぞられたような気持ちの良い風が胸をふと吹き抜けた。

「そうですよね。大切にするって、ときにそういう選択肢もありますよね」

 伊黒さんは瞬きをしながら、私の顔を見てる。
 私が『結婚』という言葉に引っかかったのは、それが否応なしに未来を想像させるからなのだ。どうしようもない未来のこと。これから先、絶対に訪れる未来のこと。

 未来を、希望を、罪を。
 私はどのように大切にしていくべきか。

「伊黒さん、私も、鬼殺隊のお仲間に混ぜて頂けませんか?」

 私の言葉に伊黒さんは、わずかに目を瞬かせた。
 
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

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