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76★ ページ28



 その日、無惨は苛立ちを腹の奥底に隠し、人間に紛れ夜の街を歩いていた。
 無惨の苛立ちの原因は、末端の鬼たちの不忠実さにあった。どの鬼も使えない、使えないどころか目先の恐怖や欲望に囚われ無惨の名を口にし自滅していくものばかり。
 どこかに居ないのか。賢く、忠実で、自分を決して裏切ることのない者はーー


「ーーお買い得ですよう、お兄さん」

 澄んだ声が、無惨の足を止めた。何を売っているのかと見れば、そこには汚れた少女が一人立っているだけ。
 
「今ならもれなく、この超優秀な孤児がなんと無料で貰えます。文字が読めるサービス付きですよ」

 斬新な少女の言葉は、ともすると傲慢に聞こえるが、無惨の気を惹くものがあった。
 なにより『サービス』という単語。無惨は一抹の興味がふと胸に過るのを感じ、顎に手を当てた。少女は胸を張って続ける。

「私はなんと、異国の文字も読めてしまうんですよ? どうです、ほしくないですか?」
 
 無惨は驚き、嘘だろうと思いつつも、心の何処かでは納得していた。『サービス』とは異国の言葉であり、なおかつ経済用語。少女の異国の文字が読めるという謳い文句は、信憑性が全くない訳では無いらしい。
 欲しくないですか、と少女は問うていた。無惨は薄ら笑いながら、自分の心の奥底に漠然と、この少女が欲しいという気持ちが湧いてきていることに気がついた。
 誘いに乗り、拾ってみるのも一興。もしも少女の言葉が嘘であったなら、その場で殺せば良いだけだ。無惨には何の損失もない。
 少女の首元を掴み、威圧するように鼻先を寄せた。

「……私のものになるからには、絶対の忠誠を誓うんだ。そうでなければお前は土に還ることになる」

 怯えるかと思った少女は意外にも、無惨にぐっと顔を寄せてきた。黒く濡れた瞳には隠しきれない利発さが滲んでいる。

「もとより私は血と肉と忠誠心で構成されているような人間です。あなたの期待に答えると誓いましょう」

 よく言う。これまでそう口にしてきた鬼が、果たして今どれだけ無惨の役に立っているだろう。ましてや己の血を与えていない人間に、端から期待などしていない。
 ーー不要になったらどの鬼に食べさせようか。
 無惨がそんなことを考えていることなどつゆも知らない少女は、はじめて見る血鬼術に目を見開く。

 気がつけば無惨は、末端の鬼への怒りを忘れていた。そうして拾った少女を興味深げに観察し、歪に口角を上げるのだった。

 *

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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

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