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「体調はもう大丈夫かい」
「はい、ご心配おかけしてすみませんでした」

 夕刻、茜日の差し込む寝室で私はお館様と対峙していた。傍らには悲鳴嶼さんが待機しており、静かに私達の対話を見守っている。

「もともと身体が弱い体質なのかな」

 のんびりとした動作でお茶を飲むお館様、私は少し返事に迷った。自分の身体が弱いかどうかなんて、これまで考えてこなかった。なんせ比較対象が無惨さまなのだから。無惨さまに比べたら私ははるかに貧弱で、頼りなくて、すぐに死にそう。

「母は身体の弱い人でした。私も小さい頃から、あまり身体を動かすことを好む方では無かったです」

 当たり障りのないことを言ったけれど、お館様はあまり気に留めている様子では無かった。懐が深いのか、もっと別のところに気を取られているのか、はたまたこの質問にはさしたる意味がないのか。

「A」

 夕日が沈む。茜色の光がお館さまの頬を照らし、それが一瞬血のように見えて心臓がどくりと跳ねた。

「君は明日から、体力づくりをしなさい」

 へ、と私の口から間抜けな声が漏れる。お館さまは微笑みながらも真剣な面持ちで私を見ている。

「適度に太陽の光を浴びて、身体を動かさないと、身体に悪いからね」

 すっかり拍子抜けしてしまった私にそう言い聞かせるお館さまの声は、やっぱり私に有無を言わさぬような不思議な力を持っている気がしてならなかった。




 ーー適度に太陽の光を浴びて、身体を動かさないと、身体に悪いからね。

 夜、布団の中で目をつぶる私の頭の中には、お館さまのその言葉がぐるぐると巡っていた。太陽の光は、無惨さまと対極の存在だ。太陽の光を浴びることの出来ない無惨さま、どれだけ強い身体を手に入れようとも、それだけは未だ克服が出来ずにいる。
 だから私は、無惨さまと太陽の下、並んで歩いたことがない。あるとすれば、ひとりで『おつかい』に行くくらいだ。

「……っ!」

 唐突に気がついた私は、弾けるように上半身を持ち上げた。
 ーー無惨さまに頼まれるおつかいは、その多くが昼間だった。
 はじめて行ったあの頃、私は育ち盛りの成長期。もしかして無惨さまは、人間である私の体調を慮ってあんなことをしていたのではないだろうか。
 私が太陽の光を浴びて、程よく運動が出来るように。

 考えてしまったら、たまらない。

 無惨さまのもとへ帰りたい。
 そんな思いが膨らんで、今にも弾けて死んでしまいそうだった。

 *

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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

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