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それからぼんやりした頭で、悲鳴嶼さんの話を聞き続けた。その夜はじめて己の力の強さを知ったこと。女の子が一人だけ助かったが、自分が犯人だと思われたこと。処刑されそうだったところをお館様に助けられ、鬼殺隊に入ったこと。これまで鬼を絶やすべく、生きてきたこと。
「どうして私にそんな話をしてくれたんですか」
口をついて出た言葉に自分のものながらはっとした。私はいま、純粋な質問としてではなく、非難の気持ちを込めてこの言葉を言った。気が付かれてしまうかもしれない、私が本当は無惨さまに思いを寄せていることに。普通ならばここで、『鬼への憎しみ』という共感で、私達は繋がらなければならないのに。私には、無惨さまのおかげで、無惨さまのせいでーー『鬼への憎しみ』なんて微塵も抱いていない!
悲鳴嶼さんの顔を覗き見る。純粋な質問として受け取ってくれ、と強く願う。非難の気持ちを持っていることに、本来抱いているだろう恨みを持っていないことに、気が付かないで。
悲鳴嶼さんはしばし考え込むように俯いていたけれど、やがて少し寂しそうに笑った。
「……君に、あの子達を重ねたのかもしれない。私は恐らく、話がしたかった。あの夜居なくなってしまたあの子達と、もう一度だけ」
気付いていないらしい態度に、安堵で満たされる。が、すぐ後を追うように、切なさがどっと胸いっぱいに広がった。
悲鳴嶼さんは一夜にして全てを失ったのだ。その原因が、鬼なのだ。そしてその鬼の始祖は、無惨さまなのだ。
ただ生きていたいと願う、無惨さまなのだ。
じわりと目尻に涙が滲んだ。だけど私には涙を流す権利などないのではないように感じた。私は純粋に悲鳴嶼さんを哀れむ事ができない。無惨さまがそれで生きながらえることができるのならば、そうして欲しいと願ってしまう。
じゃあこの涙は、何だろう。
太くかたい指が、不器用に私の目尻を拭った。悲鳴嶼さんは硝子細工でも扱うみたいに、おそるおそる私の目尻の涙を拭う。
「君が泣かなくていい」
悲しみは全て自分が背負うとでも言うように、悲鳴嶼さんは柔らかく微笑んだ。
私はそのとき、ふと諒解した。
この涙は、無惨さまの『生』が人間の生を奪わなければ存在出来ないこの世の理不尽を思っての涙なのだ。
「この世界を、大切な人が、明るい太陽の下で、みんなと笑っていられるものにしたいです」
私の決意に、悲鳴嶼さんは同じ気持ちだと頷いた。
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時