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*

 ごろりと地べたに寝転ぶ。視界いっぱいに、眩いばかりの星が浮かんでいる。その昔、光が私の目にに届くまでには何億年もの時を要すると知ったとき、私はこの満天の星空を美しいと思った。
 そんなことを思い出すのは、私の傍らに佇む人を美しいと思ったからだろうか。

「……A」

 無惨さまは切なそうに私を呼ぶ。私は動かず、ただ天を見上げる。
 無惨さまは決意したようにぐっと唇を噛みしめると、私に顔を寄せた。

 唇が触れる、寸前。




 私は何やら薄暗い部屋で目を覚ました。

「……起きましたか」

 女性の声、だけど姿は見えない。声がくぐもっていたから、声の主は襖の向こう側にいるのだろう。
 私は今、薄い布団に寝かせられている。室内は薄暗く、窓には大きな木の板が打ちつけられており、光がさし込まない。どうしてこんなところにいるのか。私はガンガンと痛む頭で、混乱のさなか、ひとつひとつ記憶を辿った。


 ◇

 外国からの船が来る日、どうしてもと無惨さまに頼まれ、私は日の明るい頃合い、港にて開かれる市場に足を運んでいた。
 どうしても参加したいけれど昼間のみにしか行われていないため、無惨さまは参加できないのだ。
 私にしかできない仕事ということもあって、私は浮かれまくっていた。

「あなた、名前は?」

 必要な本を揃えた後、帰ろうかとひとつ息をついたら、そう声をかけられた。
 振り向くと、そこには柔らかく微笑む女性が一人。ふわり、と藤の花の匂いが鼻先をつついた。

「あなた、名前は?」

 もう一度聞かれたので、私は迷った末にAです、と答える。すると彼女は再び柔和に微笑むと、私に手を伸ばし、抱きしめた。

「もう大丈夫です。あなたのことは私達が保護しますから」

 え、と声を出す暇もなく。首のあたりに強い衝撃が加わったと思えば、気がつけば私は気を失っていた。


 ◇
 

 誘拐、そのニ文字が少し落ち着いた私の頭の中にちらついた。どうやら私はあの柔和そうな女性に攫われてしまったらしいのだ。
 私は改めて周囲を見回した。二面の壁と二面の襖に囲まれた部屋、唯一ある窓は塞がれ、外の様子を見ることは出来ない。照明が灯ってはいるが、心もとない薄暗さである。
 私は白い布団に寝かされていた。撫でてみればそれはそれなりに質の良いものである。

 以前、思い出したくもないけれど、陸太郎に攫われた記憶がある。
 その時とは決定的に、何かが違うような気がした。

 *

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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

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