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家出をして知ったこと。
それは孤児院の外にも、私が思うよりずっと多くの孤児がいたこと。彼ら彼女らは力強く、自らの力のみで生きていたということ。
私はそこに、果てしない自由を感じた。
美しい見目のものは自らの美貌を、足の速いものは自らの脚力を、手先の器用なものは自らの指先を。己の持つ武器を使って、悪事を働き、生きていた。
羨ましいと思った。
やんわりと本を読むことを遮られ、外へ出て遊ぶことを促されるよりも、ずっと。異国の言葉をするすると習得することが、気味悪がられるより、ずっと。
贅沢な願いだと思った。私は孤児院に居るだけで毎日食べ物を食べられるし、屋根の下で眠れるし、お風呂にだって入れる。
それでも。
一夜を外で明かした後、孤児院に戻った。
そうして、目を見開いた。
孤児院は火の海になっていたのだ。
「……え」
人々の噂によると、孤児院に関わる会社ーーおそらく私の父の会社ーーを恨む人間が、見当違いにも孤児院に火を放ったらしい。孤児院から遺体は見つからなかった。つまり、みんな逃げることは出来たらしい。だけどどこに逃げたかは分からなかった。
つまり私は、戻る場所を失った。
ゆえに私は、街の裏路地で暮らし始めた。盗みも働こうと思ったけれどやめた。文字を読めることはそれなりに便利な能力だったから、それでお金を得た。それでもその日一日、なんとかご飯を食べることが出来るくらい。
次第に私の胸に、本を読みたいという欲求が湧いてきた。本を読みたい。ただただ本を読みたい。
欲求を持て余した心臓が暴れていた。
明確に、求めていた。
そんなある夜、腐った街で、私は出会った。
「お買い得ですよう、お兄さん」
そんないかがわしいことを誘うみたいな口調で、私は男の人に声をかけた。
思えば一目惚れだったのだ。お金持ちっぽいからという理由だけで話しかけるほど、私は呑気じゃない。
すらりと長い手足、黒い洋服を着こなす美しい男性。だけど、なぜか周囲に対する警戒心と、ほんとうにわずかな怯えをあわせ持っていた。
今まで出会ったことのない人だった。
「無惨さま」
今なら母に深く感謝できる。
私を産んでくれて、ありがとう。
無惨さまと出会える人生を用意してくれて、ありがとう。
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時