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 母は病弱で、なおかつ心が不安定だったがゆえに、家事のほとんどを幼い頃から私がしていた。
 だけど私は家事が楽しかった。
 特に掃除は楽しかった。
 これまで埃を被っていた畳が輝きを放ち、家中の淀んだ空気が一掃される。それに頻繁に掃除をすると、心なしか私の人生がより良いものになるような気がしていたのだ。

 母は病弱だった。そして病弱なことを、むしろ喜んでいた。私を遺して死ぬかもしれないことを、何とも思っていなかった。ただ母の心には、自分が病におかされていると知れば、私の父が見舞いに来てくれるかもしれない、という儚い希望があった。

 心も、生活も、貧しいながらに生きていた。あるときから母は怪しげな宗教にのめり込み始め、極楽が何だと言っていたけれど、私は大して相手にしていなかった。今思えば、死を目前にし、母も自分の人生の意味を考えていたのかもしれない。

 しかしある日、母はふいに亡くなった。あまりにあっさりとした死に、私は実感が湧いていなかった。信者だと名乗る人が母の遺体を引き取った。死んだ母は極楽に行くらしい。そのとき私は極めて素直に、どうでも良いと思った。死後母がどこへ行こうと、どうでもいい。

 母の死の噂をきいたらしい、綺麗な服を着た父がボロボロの我が家を訪ねてきた。そのときうまれてはじめて父の顔を見た。父は私を認知していなかったけれど、口封じのつもりか、孤児院には入れてくれた。父の仕事のツテで紹介されたらしい、教会が母体の孤児院。
 私はそこで、たくさんの本に出会った。



 本は素敵だ。私の生きる世界全てだったあの小さな家が、どれだけ狭いものであったかを教えてくれた。広い広い世界を教えてくれた。教会にある日本語の本は読み尽くしたので、異国の本を読みたくなった。そこで異国語で書かれた聖書を読み、異国語を習得した。

 一緒に暮らす孤児のみんなとは、仲良くなった。だけど一部のシスター達からは気味悪がられているのを感じていた。子どもと違って大人は得体の知れないモノを気味悪がる。なぜなら大人は、すべてを知っていなければならない責任があるから。そう思い込んでいるから。


 息苦しさを感じていた。
 大人の目線で私の行動を思うがままに促そうと試みるシスターに。笑顔で手に持つ操り糸、私は操り人形。
 それを望まれていたことが、何より息苦しかった。

 だから思いつきで、こっそり孤児院を抜け出した。一夜限りの家出をしたのだ。

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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

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