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答えを待っていると、無惨さまはじっと私を見たまま、少し笑った。
「……私が、そうしたかったからだ」
私は大きく目を見開いた。そしてぞく、と肌が粟立つように感じた。無惨さまの赤い瞳が、ずっしりと重い熱をはらんで私を見ている。
無惨さまが、そうしたかったから。つまり私は、無惨さまに望まれてここにいる。それがどれほど私を喜ばせ、幸せにする事実であるか、無惨さまは知っているのだろうか。孤児であった私にとって、その言葉がどれほど大きな意味を持つか。
ふいに涙が込み上げてきた。でもその涙を見られたくなて、私はじりじり後ずさると寝台を抜け出した。
「……あ、あの、私……喉が乾いたので飲み物を飲んできます！」
挙動不審な私に、無惨さまは珍しいものでも見るような顔をする。私はそんな顔にすら涙が溢れてきそうでたまらなくて、脚をもつれさせながら寝台から遠ざかった。
どれだけ私は愛されていたのだろう、それなのに私は、忘れてしまった。
と、つるりと脚が床の上を滑った。
ぐるんと視界が巡り、焦茶色の天井が視界に広がる。
あ、転ぶ、と思った直後、後頭部に強い衝撃が加わって、私は意識を失った。
◇
記憶のなかで、母はいつも泣いていた。
線の細い人で、触れたらほろほろ崩れてしまいそうなほど、不安定な人だった。私が泣いたり、わがままを言ったり、暴れだしたりすると、すぐに瞳を真っ暗にして、表情の抜け落ちた顔で、こんこんと寝込んでしまうような人だった。
だから私は年齢にしては大人びていたし、運動を好まない人間に育ったんだと思う。そうでないと生きていけなかった。
私の父はそこそこ有名な人であるらしい。母は父のことを話すときだけは別人のように生き生きとしていた。母はもともと父の屋敷で働く使用人の一人だった。父には奥様も居たのだけれど関係は冷めきっていて、だから父はたびたび母に手を出し、とうとう私を身籠った。それを知った父はひどく狼狽したらしい。慌てて母に産まないように言ったらしいが、もうすでに手遅れなほど私は母の体内で育ってしまっていた。
母は結局私をうみ、父は母を捨てた。
どうして私を産んだのか、母に聞いたことがある。
母は埃だらけの畳を見て、笑った。
「……あの人を、繋ぎとめておけると思ったのよ」
それも叶わなかったけれどね。
そのとき私は理解した。
私は私に与えられた人生の役割を、果たせなかったのだと。
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (
レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした！！！無惨様の好感度爆上がりです！ (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きりんの木
| 作成日時：2020年1月25日 12時
