第二十九話 ページ29
「お二人とも、お疲れ様です。…なんかシロたちが悔しがってましたよ」
そう言って桃太郎が苦笑いをするとAと白澤は微笑み返した。
「あらあら」
「まぁまぁ、次優勝狙えばいいじゃない」
「A様、桃太郎さん、あとそこの白豚」
声のした方へ三人が顔を向けると、鬼灯が鍋を持って歩み寄ってきた。
「てめぇ今何つった？白豚ぁ？」
「一つお願いしたいことがありまして」
白澤を無視して鬼灯が話を切り出す。Aがなんですかと返すと、鬼灯はおもむろに鍋を差し出した。
「実は鍋が残ってしまって。食べるのを手伝ってほしいのです」
三人の表情が強張る。しかも鍋はかなりの量が残っていて、食べ切るのには見るからに時間がかかりそうだ。
「え、閻魔大王とかも食べたがってますよきっと」
そんな事態は何としてでも避けようと必死にAが口を開く。鬼灯はいえ、とゆっくり首を横に振った。
「閻魔大王は先程から探しているのですが見当たらなくて。信じがたいですが何か急ぎの用があるのでしょう」
「逃げやがったなぁ……」
桃太郎が力なく呟く。白澤も必死に言い返した。
「でもさすがにこの量を四人では無理だろ？」
「ですが味は悪くないのですぐ食べ終わりますよ」
鬼灯の発言に三人はまたもや凍りつく。この鬼は味覚も鬼なのか、と。
鍋を持った鬼灯がじりじりと近寄ってくる。
「やばい…これは本当にやばい」
真っ青になった桃太郎が後ずさる。Aも後ずさりながら合掌し、ぼそぼそと開口した。
「苦しみを知らず、また苦しみの生起するもとを知らず、また苦しみのすべて残りなく滅びるところをも、また苦しみの消滅に達する道をも知らない人々…」
「あぁ…A様が壊れて何か言ってるぅ……」
「何だっけ、仏陀の言葉だっけ…」
白澤も二人に続き後ずさる。そのとき、桃太郎ははっと何かを思い出し、顔をAに向けた。
「A様！ほら、何か凄い力使えるみたいな…そういうのありませんでしたっけ？」
「何言ってるんですか、桃太郎さん」
Aの声が震えている。
「言ったはずです。わたくしは肩書きだけ派手で弱っちい、と」
「えっ、嘘」
白澤も情けない声へと変わる。
「皆さんで召し上がれっ！！」
鬼灯が鍋を持ったまま走り出す。もう逃げることはできなかった。
三人の絶叫が辺りに響き渡った。
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