第十六話 ページ16
「鬼灯さん…って、あれ?寝てる?」
桃太郎が話しかけても鬼灯が反応しないと思えば、先程のバトルで疲れたのか、デッキチェアで寝息をたてていた。
「よっしゃ、鬼灯さん埋めよ」
唐突にAがデッキチェアを引きずって移動させる。白澤は口元を歪め、いたずらっぽく笑っていた。
「僕も埋めるー」
「後で怒られても知りませんよー?」
桃太郎がやれやれと息を吐く。Aはそんな彼にはお構いなしのようだった。起こさぬように鬼灯を砂浜へ転がし、砂をかき集める。白澤も膝をついて懸命に砂をかき集めた。
鬼灯の足が埋まった頃には、桃太郎も二人に協力していて、三人の力で鬼灯の体はあっという間に砂に埋もれていった。
「これは…怒られそうですねぇ」
顔だけ出して呑気に寝ている鬼灯を見てAが零す。桃太郎も頷き、苦笑いを浮かべた。
「楽しくなって調子に乗ってたらこんなに…」
「でもわたくしは大満足です。写真もいっぱい撮れたし」
白澤と桃太郎がAのカメラを覗き込んでみれば、今後拝めることのないであろう鬼灯の今の姿が様々な角度で撮られていた。
「途中、起きないかとヒヤヒヤしましたよね」
「うん、時間勝負だったよね」
「お二人は何勝手にチキンレースにしてるんですか…」
Aと白澤に桃太郎がいつもの調子でつっこむ。
「まぁ、僕を好き勝手振り回してるこいつにはこれぐらいの制裁は必要だと思うな」
と、嬉しそうに笑う白澤の横でAは何かを思いついたかのように二人に向き直る。
「これ、鬼灯さんが起きたらどうします?」
「逃げれば良いんじゃない?」
「白澤様、追いかけてくるに決まってますよ」
桃太郎が腕を組む。そもそも何で俺が巻き込まれたんだろう、と密かに思っていた。
「連帯責任で良いですか?」
Aが二人の顔を交互に見て訊ねる。桃太郎は仕方ない、と言うように首を縦に振った。
「まぁ、連帯責任なら一人当たりの罪は軽いでしょうし…」
「わぁ!桃太郎さんありがとうございます」
Aが両手を合わせて目を輝かせる。白澤も納得したように頷いていた。
「良いね。じゃ、決まり」
「何が”良いね“…だ」
三人の体が硬直する。たった今耳に入ったのは聞き慣れたバリトンボイスである。その声を出せるような人間、いや、鬼はただ一人。
三人は何も言わずに一気に駆け出した。
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