第十二話 ページ12
「A様、スウェーデンって行ったことあります?」
「ありません」
食堂で夕食をとりながら、二人はテレビを見ている。鬼灯曰くCSにすると見られるという、例の世界で不思議を発見する番組である。
「今、アイスホテルの中にいます!壁も机も全部氷でできていて、とっても幻想的ですよ!」
女性リポーターが声高らかに家の中をさし示すのを目にして、Aは羨望のため息をついた。
「綺麗ですね。わたくしもいつか行きたい…」
「私も行ってみたいです」
鬼灯も頷くと、ところで、と再び口を開いた。
「あなた、現世へ視察に行ったことはありますか?」
「え、そんな素敵なものがあるんですか」
と、目を見開くAの職場には現世へ視察する機会は無かった。むしろやる意味がない、と言った方が妥当である。
「えぇ、私は動物園に行きましたよ」
「有給取ったことがあっても、わたくしは現世に行ったことないですね…」
「有給ではオーストラリアに行きました」
「ごいすー」
再びテレビ画面に目を見やると、Aがぽつりと呟く。
「わたくし、まずは海に行ってみたいんですよ… 。海って、どんな感じなんでしょう」
「海ですか」
鬼灯は丼を手にしたまま、目の前に座る相手の言葉を繰り返しただけだった。二人は口をつぐんでテレビ画面を見つめている。
しばらくすると、何やら少し考え込んだ様子の鬼灯がAの顔を見た。
「海、行きませんか?…私と」
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