『寡黙な夏目漱石の訪問』赤緑 ページ8
「月が、綺麗ですね」
もうそろそろ終電も終わる頃合い、ふらっと野良猫のように現れた大毅が玄関を開けた俺を見てそう言った。(真顔で)
それは普段の彼にはまるで似合わないような、どこかで聞いたことのあるような、短いフレーズ。
「…え？おん、綺麗やな、…どうしたん？｣
見上げた空には確かに綺麗な満月が浮かんでいる。金とも銀とも表現のし難い色で染まる丸い星は堂々と存在を主張していた。
そろそろ夏も終わる時期なので風が心地よい。夏やから、と襟足を切った彼の髪も、少し長く伸びてきた。
「今日たまたま近くきてたんよ。本屋に用があって｣
「うん」
「やから、寄ってみた」
ちょい、と駐車場の方を指してみせる。どうやら車で来ているらしいので終電の心配はしなくて良さそうだ。
唐突の訪問には驚いたけど、恋人の来訪はとても嬉しい。
「…時間あるんやったら、上がってく？｣
というか、上がって行ってくれたら嬉しいなぁなんてこっそり思ってみたり。大毅の顔を覗き込んで返答を待つ。
「あー……、帰るわ｣
「そ、っか｣
さほど間を開けることなく彼は口を開いた。その唇から零れた返答は俺の望むとこじゃなくて、ついあからさまに肩を落としてしまった。
「ちょっと顔見たかっただけやし｣
「ふふ、明日また会えるやろ｣
ぽすん、と大毅が手を伸ばして俺の頭を撫でてくれる。これだけで俺の機嫌は少し回復してしまう。現金すぎ。彼の少し小さな手がすらっと髪を梳く感覚が心地いい。
「言いたいことも言ったし、帰るわ」
「え？」
ああ、彼の手が離れてく。
ぼうっとその手を眺めながら、彼の"言いたいこと"は何だったのかを考えた。特に、これといって特別な事は話していない。
「"月が綺麗ですね"」
冒頭の言葉を彼はもう一度繰り返した。
月明かりと玄関灯に照らされた彼は優しい笑顔を浮かべて、俺の耳元に唇を落とす。鼓膜をリップ音が揺らすもんだから頬が火照ってしまう。
「っ、」
「ほな、おやすみ」
(にゃぁ、)
彼の声に混じって、不意に猫の鳴き声が聞こえた。こちらを見据えていたその猫は最近よく見かけるようになった野良猫。意外と懐くもんやからそろそろ名前でもつけてあげようと思っていた。なので名前はまだ無い。
「ねぇ、だいき｣
「ん」
「ずいぶん言葉足らずな小説家さんやな｣
目を丸くした大毅が2秒後に「ふはっ、」って吹き出して満面の笑みで手を振った。
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憂(プロフ) - わきやまさん» お返事遅くなり申し訳ありません。JUMPからの遠征ありがとうございます、、！楽しんでいただけて幸いです。 (2018年2月27日 18時) (
レス) id: 1b0f5e1577 (このIDを非表示/違反報告)
わきやま - Dears、号泣してしました。普段はJUMPばかり読んでいるのですが、思わずコメントしてしまいました。頑張ってください！ (2018年2月24日 13時) (レス) id: dd9838bc03 (このIDを非表示/違反報告)
憂(プロフ) - 紫あいすさん» ありがとうございます！緑赤、書いたことはないのですが頑張ります。笑 (2018年2月19日 1時) (レス) id: 1b0f5e1577 (このIDを非表示/違反報告)
紫あいす(プロフ) - 殺人未遂事件、思わず笑ってしまいました笑。ゆうさんの作品はどれも楽しみに読ませていただいています。もしよかったら緑赤のお話を書いて頂きたいです！ (2018年2月18日 17時) (レス) id: 7333fadd2b (このIDを非表示/違反報告)
憂(プロフ) - みおんさん» 良かったです〜！ありがとうございます！ (2018年2月14日 23時) (レス) id: 1b0f5e1577 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆう | 作成日時：2018年2月5日 2時
