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"キョウダイ"
なんでやろ。
ほんの数時間前に、Aと母親のやりとりを泣きながら見てた紫耀を思うと、その言葉が安っぽいように感じてまう。
ほんの数時間前に、紫耀に自由になって欲しいと泣きながら訴えてたAを思うと、その言葉が薄っぺらいように感じてまう。
今の紫耀にとってAはどういう存在なんやろう?
今のAにとって紫耀はどういう存在なんやろう?
"大切"っていう言葉でさえ、この2人に使うには深みがないように思えてまう。
「A決まった?」
「うーん、チーズハンバーグもいいけどパスタにしようかなぁ…」
「パスタだったらカルボナーラでしょ?」
「なんでわかるの?」
「わかるわ!俺Aがカルボナーラ以外のパスタ食ってんの見たことないもん。」
「気づいてたんだ?」
「さすがにね。」
「じゃあ今日もカルボナーラで。」
「あ、でもここのカルボナーラAの嫌いなマシュルーム入ってる。」
「え…じゃあチーズハンバーグにしようかな…」
「いいじゃん、カルボナーラで。マシュルームは俺が食べるから。」
Aと紫耀、2人してメニュー表と睨めっこしながら交わすやりとり。
「紫耀は何にするの?カツカレー?」
「いつもなら絶対カツカレーだけど、今日はチーズハンバーグ。デカいの頼むからAも食べるの手伝ってね。」
「うん。今度カレー作る時はカツカレーにするね。」
何気ないやりとりの中にも、互いに対する想いが随所に溢れてて、
紫耀にとってAがどういう存在か、Aにとって紫耀がどういう存在か、それを既成の言葉に当て嵌めようとしてたことが間違いやったと思い知る。
勝ち負けで言うのは変かもしれへんけど、
どんなに俺がAを想っても、紫耀がAを想う気持ちには勝てへんのやろうな…
それとは逆で、どんなに俺の中で紫耀の存在が大きくても、Aの中での紫耀という存在の大きさには届かへんのやろうな…
でも俺、
Aと紫耀、この2人を…
想い合うこのキョウダイを、
絶対に守りたい。
この気持ちは誰にも負けへん。
「俺ちょっとトイレ行ってくる。
和風ハンバーグ頼んどいて。」
そんな自負の念を抱いたところで、俺は席を立った。
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作者名:P | 作成日時:2019年10月8日 22時